茶の湯 徒然日記

茶の湯との出会いと軌跡、お稽古のこと

志の種

2022-08-05 16:36:43 | 茶の湯エッセイ
 淡交タイムス8月号がポストに届いた。

 巻頭は坐忘斎お家元、次に鵬雲斎大宗匠のお話がある。
 大宗匠の”志の種”というお話に深く感じ入った。
 実は先月も”母の教え”という話で、読んで涙してしまった私。
 母の話を聞いたり読んだりすると、ああ私の母もそうだったとか、母ならこれを見てなんていうかなあ?と考えたりして、つい涙もろくなるのだ。
 人生と茶道の大先輩である大宗匠のお話にはいつも力を感じる。

 さて、今回の”志の種”というお話も私も頑張らなくてはと思わされた内容だったので、忘れないように書き留めるとともに、皆様にもご紹介しておきたいと思います。

**** 以下 引用 *****
”志の種”

 八月一日は「八朔」や「たのみの節供」と呼ばれ、日頃お世話になっている相手に進物を献じ、感謝の気持ちを伝える日ですが、これは「田の実」すなわち稲の初穂を贈る民間の風習で、田の実が「頼み」に通じることから、忠義を重んじる鎌倉時代の武家へ広がり、やがて宮中行事に発展しました。家元では毎年「八朔御祝儀」として直門社や出入り方が挨拶に来られます。このような武家・茶家としての古来の慣習や伝承を守り伝えていくことも私共の務めです。
 さて、先の大戦から七十七年が経ち、間もなく終戦の日を迎えます。特攻隊の生き残りとして、私はこれまで亡くなった戦友の弔いをしてまいりました。靖国神社の献茶式や戦没者慰霊祭に臨む度に皆の顔が浮かび、「お茶の力で、人類が二度と愚かな争いをしないように頑張れ」という彼らの声が聞こえてきます。「文」を以て世界が和やかになるように。そのような気持ちで私は世界中を回ってまいりました。
 人は、善く生きるために哲学を持たなくてはなりません。それは思想であり、志です。私たちは皆、生まれた時に両親から心の中に「畑」をもらっています。成長していろいろな経験をし、将来の自分の姿を描くようになります。その夢や願いという志の種を植え、日照りや嵐にも負けず大事に育てていくのです。私は嫡男として生まれ、茶人になるという「畑」を父母から頂きました。今は坐忘斎家元の時代、次に丹心斎若宗匠の時代になるのですが、皆がそれぞれのよい作物を育て、次にバトンタッチしていく。これが伝承です。伝統とは歴史的な事実であり、その中で受け継いでいく人がいなければ成り立ちません。文化や芸能の世界だけでなく、千家十職や百十会など美術工芸や日常生活のあらゆるものも同じです。色々な手法をどのように受け継いでいくのかを思索し続けることに大きな価値があり、その価値を知ること、そのために茶道があります。
 私たちは生きている限り自分の「畑」を懸命に耕し、よい作物を育て、次の世代に渡していかなければなりません。それが人間の生きる道であり、そうして己の居場所を確立できるのです。
 此の月も同門の皆さんの一層のご精進とご多幸をお祈りします。 合掌

                        淡交タイムス 2022年8月 より
******************************

 自分の心に畑があり、毎日を過ごす中で耕し、種をまき、育てていく。
 嵐があっても日照りがあっても自分なりに休んだり考えたりしながら畑を守り、作物を守りながら大きく育てていく。いつどんな実がなるのか、それを誰に託していけるのか。

 自分が今ここにいるのは周囲の人がいてこそ。
 世界中で、お互いを思いやり、歩み寄り、笑顔で過ごせる日がきますようにと特に祈る夏です。

 私もまずは身近な人と幸せな気持ちを分かち合うこと、微力ながら日本や茶道の良さを伝えていくことでなんらかの実を実らせていけたらと思います。小さくとも一歩一歩。
 


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