高田博厚の思想と芸術

芸術家の示してくれる哲学について書きます。

マルセル「稜線の路」30

2022-10-03 14:50:58 | 翻訳
103頁

(つづき)ぼくは全然興味がないね。ぼくがきみに単純に言えることは、そういう便りをきみの側から、ただ歓迎したのみならず、きっと懇請もしただろうことは、場違いだと思う、ということだ。



第六場

同上の人物、ジェローム

(ジェローム) どうしました? 議論を中断させましたか?

(フィリップ) 全然。ぼくにはまったく不快な或ることを発見したところなんです。それだけです。

(アリアーヌ) それにしても乱暴だわ! 兄さんは、私が二十年来知っているクラリスと文通するのをじゃまするつもりなの?

(フィリップ) 昔は、きみは彼女を重要とも思わなかったのに。彼女がきみの注意を惹きはじめたのは、あの日からだ。あの日、彼女の振舞いが… 

(アリアーヌ) ばかなことを言わないで、おねがいだから。

(フィリップ) まさしくほんとうのことだよ。


104頁

(アリアーヌ) いまでは、彼女は不幸なひとだわ —— ほとんど漂流物のような。

(フィリップ) 彼女は充分、生きるためのものを持っている。

(アリアーヌ) 兄さんは、それで足りていると思ってるの? 

(フィリップ) 彼女の眼には、それこそは間違いなく本質的な事だよ。

(アリアーヌ) 今では彼女をそんなに低く評価するなんて、兄さんもずいぶん寛大ね! 

(ジェローム、ひじょうに神経質に。) クラリスはぼくたちの生活から出ていったんだ。

(フィリップ) 正に、そうではないように思える。

(ジェローム) ここではもう彼女のことを問題にしないようにして欲しい… だけど知りたいのは… ここに、ぼくの留守の間、誰も来なかったの? 

(フィリップ) きみは、ひじょうに奇妙な訪問を見る機会を逸したね。 

(ジェローム) フランシャール夫妻、でしょう? 気づいていましたよ。正面の歩道ですれ違ったばかりなんです。喧嘩しているような雰囲気でしたよ。

(フィリップ) 彼らをほとんど変えてはいなかったな! 

(ジェローム) 彼らは何しにここへ来ていたんですか?


105頁

(フィリップ) それはきみの奥さんに訊いてくれ。ぼくはまだ理解できていない。ぼくがきみなら、そのことをはっきりさせるために、いろいろやるだろう、とは思う。(外出しようとする。

(アリアーヌ) いつまた会える? 

(フィリップ) 電話するよ。(外出する。) 



第七場

アリアーヌ、ジェローム

(アリアーヌ、優しく。) ねえあなた、きょうは疲れているような感じね。 

(ジェローム) どうしてぼくが疲れているんだい? 

(アリアーヌ) あなたはこのところ、いっぱいお仕事をしているように思えるから。ラヴェル音楽祭に関するあの論評を、あなたはほんとに迅速に書かなければならなかったし… 

(ジェローム、いらっとして。) 知ってるだろう、ぼくは、こつを覚え始めていることを。 

(アリアーヌ) もちろんよ。(つづく) 


















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