109頁
(ジェローム) アリアーヌ!
(アリアーヌ) 何? あなた。
(ジェローム) それは全部本気かい? きみはどうして分からないのかな? ぼくの専らの欲求は、ぼくはもう… これまでのように、きみの世話にはなりたくないということだっていうことが…
(アリアーヌ) でも、ジェローム…
(ジェローム) ぼくが是が非でも… 生活費を稼ぐことに執着していなかったら、『パリ新聞』と『相』のあの執筆欄をぼくのものにするという目的のために、あんなに自問自答しただろうか?
(アリアーヌ) じゃあ、フィリップが正しかったのね…
(ジェローム) もう一度言うが、フィリップのことは外そう。
(アリアーヌ) でも、あなた、その仕事が嫌なら、どうしたって他のものを探さなければならないわ。
(ジェローム) 子供っぽいな。きみは、現代では支払いのある仕事があることで自分を充分幸福だと見做さなければならないということに、気づく雰囲気が無いね。
(アリアーヌ) 解ってるわ、でも、それにしたって… ほんとに馬鹿げてるわ。あなたはどうして理解しないのかしら、私の唯一の、最も純粋な喜びは、いずれにしたって、(つづく)
110頁
(つづき)なにより、あなたの生活を少しは容易にすることだということを。
(ジェローム) 残念だね。ほかの満足を探さなくちゃ。
(アリアーヌ、突然。) あなたは私を恨んでる!
(ジェローム) ぼくが?
(アリアーヌ) あなたは私をたしかに恨んでるわ。でも何のために? ようするに… そうよ、あまりに当然だわ。
(ジェローム) 何を想像しようっていうんだい?
(アリアーヌ) この哀れな健康状態のことね、あなたが私を許せないのは。
(ジェローム) ぼくがきみを、身体の調子が良くないことで責めてるって?
(アリアーヌ) そうよ、あなた。あなたがそれに気づかなくてもね。それが唯一の理由だわ。
(ジェローム) それにしてもぼくは、きみが治ったのは証明されたと思っていた…
(アリアーヌ) あなたはすばらしく忍耐強かったわ。でも、しまいには忍耐は尽きてしまうのよ。
(ジェローム) だいいち、きみは改善しているんだよ。
(アリアーヌ) でも、何ていう代価を払ってでしょう!
111頁
(ジェローム) はっきり言うけど、きみはもう病人のようには全然見えないよ。
(アリアーヌ) 残念だけど、見かけはちょっと欺くものよ、知ってのとおり。
(ジェローム) それでもぼくはきみの様子から、時々思ったよ… きみは少しずつでも、住む土地に再び順応しようと試みることが、ほんとうに出来ないのだろうか、と…
(アリアーヌ) 思っていることをはっきり言ってちょうだい、あなた。
(ジェローム) たとえば、きみの滞在を、ぼくもきみと一緒に出発できる時期まで延ばしてみるとかさ。
(アリアーヌ) それは医者が私にするなと言っていることよ。でも、あなたが望むなら…
(ジェローム) ぼくは、きみはもう医者にはかからないと思っていたよ。
(アリアーヌ) 私、世話をする私の患者たちの誰某の処で、ドロー医師ととてもよく会うのよ。どうしたって、彼は私に尋ねるわ…
(ジェローム) きみはもう、「私の患者たち」とは言わないほうが、ぼくには良いね。その所有表現はいらいらさせる。
(アリアーヌ) その通りね… わかったわ、それが少しでもあなたの喜びになって、気持が少しでも晴れるなら、あなたの求めるようにしてみましょう。
(ジェローム) ぼくは何も求めていないよ、アリアーヌ、(つづく)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます