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第三場
セルジュ、ヴィオレット
(セルジュ) どういうことなんだい? ええ? ご説明ねがえますか…
(ヴィオレット) セルジュ!
(セルジュ) 何を彼女はほのめかしているの? ええ?
(ヴィオレット) あなたの声は偽りの印象を与えるわ。
(セルジュ) ええ?
(ヴィオレット) ええ、はやめて… セルジュ、あなたなの? あの手紙を書いたのは。
(セルジュ) どんな手紙を?
(ヴィオレット) あなたはとてもよく知っているでしょう、自分がわたしを騙すのに一度も成功しなかったことを。神さまはご存じよ、あなたがしばしばそれを試みたかどうかを… セルジュ! わたし、あなたにそんなことが出来るとは思わなかった…
(セルジュ) 何だって?
(ヴィオレット) 今度のことは、わたしがあなたを許すことができない最初のことよ。
(セルジュ) きみはぼくを何についても許してくれたことはない… ああ!(つづく)
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(つづき)ぼくは、きみがぼくを嫌っているとは言っていない。それどころじゃない。きみはぼくを軽蔑している。
(ヴィオレット) わたし、あなたを軽蔑してはいないわ。
(セルジュ) 多分、ぼくがルプリユール夫人に手紙を書いたことが、その理由だろう。なんとも、きみがぼくを軽蔑するに充分な理由だ。
(ヴィオレット) もっと単純なことよ。あなたは復讐として手紙を書いた。わたしがちょっとの幸福でも持つことが、あなたには我慢できなかった、というのが理由よ…
(セルジュ) 幸福なきみだって? きみねえ、きみには自分が見えたことがない… 彼女はきみにその手紙を見せたのかい? (ヴィオレット、いいえ、という仕草をする。) 彼女が手紙を受け取ったということを、どうしてきみは知ってるの? 彼女はその手紙から何を結論づけたの?
(ヴィオレット) 見たところでは、何も。
(セルジュ) なんと! でも、馬鹿げたことをしたとは認めるよ。それでもきみは理解している… ぼくの人生は、おどけたものではない…
(ヴィオレット) 分かっているわ。
(セルジュ) いいや、きみには想像できない。シュザンヌ… ああ、あれは悪い女じゃない。だけど、だいいち、あれは芸術家ではない。そして、ただ音楽の聴き方を何も知らないだけではなく — 彼女もじぶんの主張はするにしても、きみは想像もしないだろうけれど、彼女はその際、口出しを(つづく)
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(つづき)時々するんだ。ぼくへの助言のつもりでね… 「あなたは力を入れて弾きすぎるわ… ペダルを使いすぎるように思うのよ… 」… うるさいのなんのって… これはまだ遣り過ごせても、ぼくはとうとう彼女を命令で従わせることになる。とにかくあいつは機転が全然利かない。機転が全然利かない女なんだ。あいつがきみたちに時々口にすることができることといえば…
(ヴィオレット) それはそんなに大事なことじゃないわ。彼女はあなたを愛しているのよ。
(セルジュ) ぼくは、あんなやり方で愛されるのには耐えらないね… だいいち、あいつはぼくを疲れさせる。
(ヴィオレット) 思い出して。あなたはわたしのことも非難していたのよ、わたしがあなたを疲れさせる、と言って。
(セルジュ) すまない、ヴィオレット… それでもぼくは詳細をきみに言うことはできない… 彼女は暴れ、地獄の生活だよ。
(ヴィオレット) かわいそうなセルジュ。嘗ては洗練された話し方をしていたあなたが…
(セルジュ) それでもぼくは白痴であることが出来たんだから! ぼくが思うに… 白痴以上だ、嫌悪だ…
(ヴィオレット) わたしたちの慣習を思い出してよ。
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