前回は、「なかなか読み進めない本」でしたが、今回はそれとは正反対で、一気に読み終える本です。あくまで私にとってですが。
藤原正彦の本は、「若き数学者のアメリカ」
以来全部読んでいるので、表現の仕方にも慣れているし、知っている人から話を聞いている感じで読めるものです。
さて、今回の「日本人の真価」は雑誌のコラムを寄せ集めたもので、適度な短さが、落語の小話を聞くような感覚で読めます。もっとも内容は多義に渡っていますが、最後のオチも落語のオチを意識して書かれている感じで、どうオチに来るかと楽しみながら読めるのも読み方の一つかもしれません。まあ、そんな読み方をしては作者に申し訳ないのですが。
教養や学問的な見識に裏付けされた、コメントは説得力が違います。昨今の首相には窺い知れないものを感じます。本の中でも、国家観や政治哲学が感じられない最近の首相たちへの厳しい姿勢も伺い知れます。また、いかにも数学者らしいというニュアンスにも他の著者には感じられない気持ちの良い切れ味があるので、どうしても読んでしまう自分があるのでしょう。
20代で書いた「若き数学者のアメリカ」からすでに50年の歳月が流れ、デビュー50周年でも企画して欲しいですね。父親の新田次郎が卒後された電波講習所が現在の電気通信大学の前身で、私の父も同じ学校の卒業生であることからも妙に近親感を覚えたものです。まあ、私も50年にも渡ってその現役の著者の作品を読み続けているというのも珍しいかもしれません。
いつまでもその舌鋒鋭い語り口とユーモアを含んだその表現を楽しめることを楽しみにしたいです。そういえば、10年ほど前に三重県に来られて講演された時は直接話を聞く機会がありましたが、全く著作からの印象と変わらない感じで、ホッとした思いを懐かしく思い出しました。