38『自然と人間の歴史・世界篇』火の利用の拡大
一説によると、南アフリカ北部にある洞窟で、人類が約100万年前に草木を燃やし、獲物の動物などを焼いて食べたとみられる跡が見つかったという。カナダ・トロント大などの国際研究チームが灰や骨などを詳細に分析した。その結果、自然発火の山火事などの灰が風や雨水に運ばれて洞窟に流入したのではなく、人類が火を使ったことがわかったのだという。確実な証拠としては最古のものではないかと、注目を集めている。
この洞窟はカラハリ砂漠の南端に近い場所にあり、ここには「原人」とされるホモ・エレクトスがいたとみられ、彼らか使っていたであろう石器も一緒に見つかった。そして、この洞窟で見つかったホモ・エレクトスの歯や骨格の化石を詳細に分析した最近の研究では、彼らがいたであろう約190万年前のアフリカ大陸には、人類はすでにおりに触れ火を使って料理していた可能性があるという(「100万年前に火を使用=原人が洞窟内で料理か―南ア」時事通信社、2012年3月配信の電子版)。
ここにいう火というのは、彼らによって、どのように使われていたのであろうか。それというのも、人はモノではなく、物質が酸素と反応しながら、熱と光を発する現象のことであって、誰かが木や落ち葉や渇いた草などを燃やすときばかりで発生するのではない。例えば、雷が落ちたり、静電気が発生したりすることなどによって、つまり自然界の出来事によって木や草の類が人の意思と関わりのないところで燃えたりもする。
その際、燃える対象としては、主にルロースなどの有機物でできているとのこと。その有機物とは、炭素と水素、それに酸素、窒素などからなる物質のことだ。また、セルロースというのは、植物の細胞壁を構成している主な成分で、化学式で書くと(C6H10C5)のべき乗(n乗といって、当該の項を何度も掛け合わせることをいう)となる。
そこで有機物を燃やすと、最終的には、分子の中の酸素は二酸化炭素(CO2)や一酸化炭素(CO)に、また水素は水(H2O)に成り変わる。もっとも、火になっているときは高温であるから、水はそのままではいられず、水蒸気の状態で生成するという理屈だ。
ここで話を戻して、火を発見し、その利用に乗り出した人びとは、これをどう利用したのだろうか。冒頭に引用した話は、火を使って料理していた可能性があるというものだが、そこでは獲物や植物の実などを焼いたり、あぶしたり、何かの容器に水と一緒に入れて煮たり、蒸したり、その他にも様々な料理法が案出されていったのであろう。また、それの舞台は、洞窟など暮らしの中心的空間であったろうから、そこで火を使用するメリットとしては、獣などの外敵から集団を守るのに有用であったし、寒さを和らげ、灯りともなる、実に多様で多彩な効用があったに違いあるまい。
(続く)
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