229『自然と人間の歴史・世界篇』産業革命の伝搬(電磁気学の基礎確立)
1785年、シャルル・ド・クーロン(フランスの物理学者、1736~1806)は、電荷の間に働く力を測定し、電荷の間には電荷の強さの積とそれらの距離の2乗に反比例する力が働くことを発見した。これをクーロンの法則という。ちなみに、現在のクーロンの定義はアンペアに基づくものであって、1秒間に1アンペアの電流によって運ばれる電荷(電気量)を1クーロンという。このクーロンの考え方は遠隔作用といって,力は遠方に直接作用するというものであったのだが、カール・フリードリヒ・ガウス(1777~1855、ドイツの数学者、天文学者、物理学者)は、電荷の周囲の空間が徐々に変化して力が伝わるという近接作用の立場から、ガウスの法則として電荷と電場の関係の整理していく。
それから、1799年にアレッサンドロ・ボルタ(イタリアの物理学者、1745~1827)は、電池なるものを発明した。これにより、電気は電流という形で取り出すことができるようになり、人間の手でコントロールできるものとなった。電気というものが、実生活に大きく、かつ日常的に役立ちうることがわかった訳だ。
それから世紀が改まってからの1820年、ハンス・クリスティアン・エルステッド(1777~1851、デンマークの物理学者、化学者)は、電流が磁石に力を及ぼす、つまりこれは、電気と磁気の間に何か関係があると気づく。具体的には、方位磁石が指す方向と平行に導線をはり、電流を流すと磁針が動いて磁場が発生することを発見する。その向きは、電流の方向に対して右回り(右ねじの法則)となる。
さらに1823年、アンドレ・マリ・アンペール(1775~1836、フランスの物理学者にして数学者)は、電流同士にも力が働くことを見つけ、そこから磁気の起源が電流にあると特定する。定常電流がつくる磁場の方向と大きさを決めるというこの法則を、アンペールの法則という。特に、これを線状電流の場合でいうと、電流の動きと右回りのねじの進行方向を一致させると、そのねじの回る方向と磁場の方向が一致する。こちらは、アンペールの右ねじの法則という。
1831年、イギリスの化学者にして物理学者マイケル・ファラデー(1791~1867)は、実験を行い、コイルと磁石を近づけたり遠ざけたり(コイルに電流がコイルの中に磁石を出し入れ)すると、電流が発生するのを発見する。ただし、磁石がコイルの中に入るとしても、その磁石が静止したままだと磁場の変動がないことになって、電流は流れず誘導起電力は発生しない。
この現象は、コイル内の磁場が変化することで電流が流れたと考えられる。また、磁石を固定してコイルを動かしたときにも、同様に電流が発生する。この現象を「電磁誘導」といい、また、これによって生じた電圧を「誘導起電力」、流れた電流を「誘導電流」と呼ぶ。理論的には、電磁誘導によってコイルに誘起される起電力の大きさは、コイルと鎖交する磁束の時間に対する変化の割合いに比例する。これを電磁誘導に関するファラデーの法則という。
さらに、電磁誘導によって生じる誘導起電力の向きは、その起電力による誘導電流の作る磁束が、もとの磁束の変化を妨げるような方向となる。かかる電磁誘導現象によって発生する磁場の向きについての理論は、「レンツの法則」の名で呼ばれる。これをいったハインリッヒ・レンツ(1804~1865)は、ドイツの物理学者であって、1834年に発表する。
この電場誘導現象を人々の生活に役立て、利用したものが発電機であって、磁場の中にあるコイルを動かした時に発生する電流の向きを判断するにつき、後にロンドン大学の電気工学教授であったジョン・フレミング(1849~1945)が学生用に考案したのが、「フレミングの右手の法則」にほかならない。彼はこの他にも、1904年に、熱イオン管または真空管「ケノトロン 」を発明する。なお、ファラデーの電気分解の法則との混同のおそれのない場合は、単にファラデーの法則と称されることもある。
それに加えて、この同じ電磁誘導現象において、これまでの話とは逆に、磁場の中においたコイルに電流を流すと、コイルが固定されているなら磁石に、磁石が固定されているならコイルに「ある力」が加わる。その加わりようは、その電流が発生する磁場を打ち消すような方向の磁場を発生するように、コイルを動かす力が発生する。その時、磁石をコイルに挿入した1つの回路に生じる誘導起電力の大きさは、その回路を貫く磁界の変化の割合に比例している。
この時、磁場の中にあるコイルに電流を流したときに発生する力の向きは決まっていて、これを覚えやすくするために、前述のフレミングが同じく考案したのが、「フレミングの左手の法則」である。
なお、磁場がどの様に電流に対して力を及ぼすのかという、この左手の法則に関連して用いられる言葉として「ローレンツ力」というのがある。これは、磁場の中を運動する荷電粒子に作用する力をいい、速度ベクトルに垂直に作用し、粒子の電荷・速度・磁束密度の積で表される。1895年に、ヘンドリック・ローレンツ(1853~1928)が子の考えを導入した。
彼は、「電流の正体が負の電気を帯びた粒子の流れ(電子)である」とする仮説を基礎に、「磁界が、電流を担う粒子に影響を及ぼす」と仮定することで、いわば磁気現象と電気現象との融合・合成によって発現した、この新しいタイプの力、すなわちローレンツ力は、方位磁石を用いて調べることができる磁力とは異なるものである。
これを、人々の生活に役立てるため利用したものがモーターにほかならない。具体的には、今二つに磁石の中間にコイルがあるとしよう。その線はブラシに挟まれた電極(黄色)につながっていることにする。電極をよく見ると竹を立てに割ったように切れこみが入っていて、お互い接触しないようになっている(これを「整流子」という)。
コイルに電流が流れるとフレミング左手の法則にしたがって、磁力中にある電流には一定の力が生じる。この場合、コイルの右側には下向きに、コイルの左側には上向きに力が働く。この力の合成で、回転子はぐるりと右向きに回転する。途中で電極が分かれているため電流は流れず力は働がないが、回転の勢いで半回転し、再び電流が流れる位置にやってくる。後はこの繰り返しで、これを繰り返すことになっている。
さて、ファラデーの電磁気学への貢献はそればかりではない。この電磁誘導現象を説明するために、電磁気学に電気力線・磁力線と電場・磁場という新たな概念を導入する。空間には電場及び磁場が存在し、これらの変化が様々な現象を生み出すと主張する。
1835年には、ガウスが電気には電荷が存在する、言い換えると、電荷があると電場ができると発表する。1種類の電荷の力は放射状に直線的に広がることをいい、これを「電場に関するガウスの法則」という。彼はまた、電流は磁場を生み、その磁気の力はループ状(環状・同心円状)につながっているとした。これを「磁気に関するガウスの法則」と呼ぶ。ここに磁場とは、磁気的な性質をもつ空間の各点のことであり、その各点の磁場の方向を繋げたものを磁力線と呼ぶ。そして磁気には、NとSとが分離できるような磁荷は存在していない。
そして迎えた1864年、ジェームズ・クラーク・マクスウェル(1831~1879)が、以上の電磁気学の成果の取りまとめ役として、登場する。彼は、スコットランドの貴族の家系に生まれ、イギリス内の大学で教授を務めた間、先達の研究成果を踏まえ電磁場の概念を物理学に導入し、光が電磁波の一種であることを理論的に予想したほか、 気体運動論では速度の分布という統計的概念を用いる。
前者では、ガウスやアンペール、ファラデーらの業績から、電気と磁気の性質を取りまとめを試みる。そして、これまでの法則を次の4つに整理して発表する。
その1として、電気には電荷が存在する、言い換えると、電荷があると電場ができる。1種類の電荷の力は放射状に直線的に広がることをいい、これは前に述べた「電場に関するガウスの法則」に当たる。
その2として、電流は磁場を生み、その磁気の力はループ状(環状、同心円状)につながっている。これは、先に述べた「磁気に関するガウスの法則」に当たる。
その3として、マクスウェルはこのアンペールの法則(前述)を一般化した。それによれば、あるところに電気が変化すると磁気が生まれる、言い換えると、電場の時間変化と電流が磁場を生み出すというのだ。
その4として、磁気が変化すると電気が生まれる、つまり磁場の変化が電流をもたらすことを挙げている、これは、ファラデーが発見した電磁誘導の法則を指している。
これらの、つごう4つのマクスウェルの取りまとめた数式(マクスウェルの方程式)は、総体として、電気と磁気が一体となって伝わる電磁波という波が存在することを意味するととともに、1864年、彼はこの成果を基に光は電磁波の一種であることを予言する。
ただし、ここでのマクスウェル自身は電磁気現象をエーテル媒質の力学的状態によるものと捉えていたようで、現代の考え方とはかなり異なっている。1888年、ヘルツが実験によりこれらを確かめ、電磁波が存在することが証明された。
なお、今日「マクスウェル方程式」と呼ばれる一連の方程式は、彼自身が書いたものとは異なっており、後にヘルツやヘヴィサイドらによって整理されたバージョンとして語り継がれているものだ。
(続く)
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆