2018年度のサントリー音楽賞受賞者高関健を迎えその受賞記念コンサートが開催された。曲目はサントリーホール国際作曲委託シリーズNo.8のルイジ・ノーノ作曲「『2)進むべき道はない、だが進まねばならない・・・アンドレ・ラルコフスキー』7つのグループのための」とグスタフ・マーラーの交響曲第7番ホ短調「夜の歌」の二曲である。前者は1987年に高関本人によって初演された作品、後者は校訂版の楽譜出版に校訂者から請われて関与した作品ということで、誠に今回の記念コンサートに相応しい選曲だと言えるのではないだろうか。高関の学研的で地道な指揮活動が日本のオーケストラ・シーンに及ぼしている影響は極めて大きい。そのアイデアを持ってエポック・メーキングな演奏活動を実現しているだけでなく、オーケストラの指導の上でも卓越した手腕を発揮し、受賞年の2018年以降も、自ら深く関連する各地のオケの実力アップに大きく貢献し続けている。一例を挙げれば、彼が2015年以来常任指揮者を務めている東京シティ・フィルの昨今の充実振りには驚くべきものがあり、今やシティ・フィルは音楽都市東京を代表するオケの上位にランクアップされて良い実力を得たと言っても決して過言ではないだろう。そうした意味で今回の受賞は誠に妥当なことであり、共にこの慶賀を喜びたいと思う。さて舞台の方だが、まずは演奏前にシティ・フィルでの慣例で高関一人が登場してプレトークが始まったのだが、今回の受賞に対するコメントなどは一切なく、曲目解説、そしてマーラーの改訂に関してのエピソードが淡々と語られていたのはいかにも高関らしかった。最初のノーノの曲は、7つのグループのオケを会場の各所に配置し、その音響のパースペクティブを体感することが主眼の曲のように聞いた。それはそれで面白くもあるのだが、同じ調子でそれが30分も続くと、聞く方としてはいささか辟易としてしまったというのが正直な感想である。演奏の困難さの割に効果の上がらない曲であった。休憩を挟んで大きく勢いよいテナーホルンで始まったマーラーの7番は、最初から聞きなれない表現があり高関版の効果が聞き取れた。日頃どちらかと言えば守りの姿勢の着実な音楽を作る高関だが、今回は攻めの姿勢に転じて、メリハリの強い積極的な音楽作りでオケを強く牽引した。その結果、私には比較的わかりにくかったこの曲がメリハリの効いた名曲に聞こえたのは何よりもの収穫だった。四楽章の夜曲の官能的美しさや、終曲の様々が入り乱れた混沌からカウベル&ベルチューブが鳴り響く大団円までの経緯がこんなに面白く聞けたことは今までになかった。オケは東京シティ・フィルということではあったが、とりわけコンマスや首席を中心に弦楽器には見慣れない顔が多く揃い、日頃の端正な音色がいささか荒いものになっていたように聞こえた。とは言えその力強さは今回は良い方向に作用したともいえよう。管楽器は首席が顔を揃え、とりわけ大活躍するホルンの鮮やかは特筆すべきものだった。
goo blog お知らせ
プロフィール
最新コメント
ブックマーク
カレンダー
goo blog おすすめ
最新記事
- 東響オペラシティシリーズ第142回(11月15日)
- NISSAY OPERA 「連隊の娘」(11月10日)
- 八ヶ岳高原サロンコンサート(11月1日)
- びわ湖ホール声楽アンサンブル第15回東京公演(10月14日)
- 東響第97回川崎定期(10月13日)
- 新国「夢遊病の女」(10月9日)
- 東京シティ・フィル第373回定期(10月3日)
- 東響オペラシティシーリーズ第141回(9月28日)
- 紀尾井ホール室内管第141回定期(9月20日)
- 東フィル第1004回オーチャード定期(9月15日)
- 東京シティ・フィル第372定期(9月6日)
- 第44回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティバル (8月28日〜30日)
- ロッシーニ・オペラ・フェスティバル2024(8月17日〜21日)
- 読響フェスタサマーミューザKAWASAKI 2024公演(7月31日)
- 京都市響第691回定期(7月27日)
- 東京二期会「蝶々夫人」(7月21日)
- 新国「トスカ」(7月19日)
- 東響オペラシティシリーズ第140回(7月7日)
- 東京シティフィル第371回定期(6月29日)
- 都響第1002回定期(6月28日)