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東京シティ・フィル第361定期(6月9日)

2023年06月10日 | コンサート
吉松隆の伝導師を自認する首席客演指揮者の藤岡幸夫が振る予定だった演奏会。しかし肺炎のため入院治療が必要ということで、急遽曲目変更なしで二人の代演者による公演となった。前半は常任指揮者の高関健が引き受けて、まずはシベリウスの「悲しきワルツ」作品44。これは弦のピアニッシモの美しさが秀でた佳演で、丁寧な高関の棒が作品の「影」を薄やかに映し出した。二曲目は俊英務川彗悟を迎えてグリークのピアノ協奏曲イ短調作品16。切れ味と恰幅の良さを同時に持った務川のピアニズムは「響」の美しさを際立たせ、決して暑苦しくないロマンティシズムがグリークの北欧調とベストマッチした。高関のサポートも万全で、とりわけ木管や見事なホルンとの絡みは印象的だった。盛大な拍手に、あたかも弾き足りないといった風情でソロ・アンコールはビゼー作曲=ホロヴィッツ編曲の「カルメン幻想曲」。超絶技巧を顔色一つ変えずに鮮やかに弾き切ったのには驚いた。休憩を挟んで、この日のメインは吉松隆の交響曲第3番作品75だ。指揮はこの楽団の指揮研究員を務める山上紘生。今回この曲の練習指揮を任されていたところでの抜擢だ。曲は4楽章構成で45分を要する大作。藤岡をして「黒沢明と大河ドラマとシベリウスとチャイコフスキーが全部ごっちゃになった感じ」と言わしめる極めてダイナミックな曲である。このエネルギーに満ちた曲を、山上は決して爆炎になることなく、節度をもってスタイリッシュに仕上げて満場の喝采を誘った。オケも全力で献身的に若き指揮者を支えた。終演後の舞台には作曲者も登壇し、若き才能のデビューを肩を抱いて讃えていた。

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