秋のシーズン幕開けは首席指揮者トレヴァー・ピノックを迎えたオール・メンデルスゾーンのプログラムだ。この作曲家は総数750もの作品を生み出したそうだが、そのうち宗教曲が90作品にも及ぶという。しかしそんな宗教曲を我々がコンサートで聞ける機会は意外と少ないのではないだろうか。そした意味で今回はとても貴重な機会だった。どれも主を賛美する内容で統一されており、私自身はキリスト教者ではないのだが、とても満たされた豊かな心持ちになって帰途についた。前半はオラトリオ「聖パウロ」の序曲、それに続いて独唱つきの合唱曲詩篇第42番《鹿が谷の水を慕うがごとく》だった。ピノックの指揮は明快にして良く歌い豊かな感情を紡ぎ出す。ソプラノのラウリーナ・ベンジューナイテの美しくリリカルな歌声が心に染みた。そして新国立劇場合唱団の清澄さと力強さを併せ持った歌声は世界に誇れる出来だった。休憩を挟んではメインの交響的カンタータ(交響曲第2番)《讃歌》変ロ長調。下世話な例えではあるが、「♪箱根の山は天下の剣」のようなメロディで始まるこの曲は個人的にはどうも理解が及ばないところがあったのだが、今回はその神髄を理解できた思いがする。それと言うのも明快にして主を讃える感情を一杯に湛えたオケと独唱と合唱が三位一体となった見事な共同作業の成果であったといって良いだろう。テノールのマウロ・ぺーターはとりわけ後半のエヴァンゲリトを思わせる歌(語り)が見事だったし、代演の澤江衣里もベンジューナイテに対峙して二重唱で実力を発揮した。そして全体を通して、アントン・パラホフスキー率いるこの日の紀尾井は、第二バイオリンのトップにもう一人のコンマスである千々岩英一を据えて万全の体制で臨み、その深く確固たる自信に満ちた生命感に溢れた音楽はヨーロッパを思わせる響きで感動を誘った。黒い僧服のような出で立ちで神への讃歌を紡ぎ出すピノックの姿は、あたかも神に祈りを捧げる牧師を思わせた。
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