メイサと7人の外国人たち

アラサー元お水とキャラの濃い外国人達の冒険記

フェアじゃない関係

2018-09-05 22:24:11 | 咲人
咲人は予想外のカウンターに驚いたようだった。
私は滑るように言葉を吐き出した。





「全っ然スマートじゃないわ。
あなたが本当に悪いと思ってるなら、どうして謝らずに話を変えようとしたの。
私がチャンスを与える前に自分から動くべきだわ。」

「………。」



結構ひどく言ってるように見えるかもしれませんが
これでも「意気地なしじゃん」とか言わなかっただけ優しいと思います。
こんな状況でも咲人はクールを気取らなきゃいけないらしく(知らんけど)
フツーのトーンで答えた。



「じゃぁ、受け入れてくれないの?」

「別にどっちでもいいけど?
ていうか、悪いと思ってるならちゃんとSorryって言ったほうがいいと思うけどね」

「そうか」




咲人はいくつか質問し、どうして俺様がスマートじゃないのか理解しようとした。
私は私でいつものようにエラそーに教えてやったが、どうにも話しが噛み合わず、
結局お互いに不完全燃焼になってしまった。
無理もない。
彼は彼で偏屈で無駄にこだわりが強い頭をしているので、彼とディスカッションするのは母国語でも大変だったろうし、
私は私で事足りていないボキャブラリーで説明しなければならなかったのだから。
フン、と仕方なく鼻息をつき、咲人は言った。




「じゃぁ俺は君に謝れないよ」



は?



「Because 俺が何が悪いのかちゃんと理解していないのに謝ったらそれは意味がない。
ただ発音しているだけで君に謝罪したことにならない。」

「………。」




コ、コイツ……

くそ面倒臭い!!




「まぁでも、俺は良かったよ。少なくともどうしたかったかは伝えられたし」




カッ



チーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!





私は話し出した。
日本語で。



「それはずるいわよ」



咲人が黙った。



「私は謝って欲しいしあなたにスマートじゃないことされたし
楽しくなかったことまで思い出させられたのに、自分だけ満足してるって?
そんなの全然フェアじゃないわよ。自己満じゃない」

「………。」

「俺はすごく良かったよ?自分勝手よ。良くそんなこと言えたわね。そんなのひどいわ」



責め立ててはいるものの、私の口調は冷静だった。
怒りに震えたりもしていなかったし、涙ぐんだりもしていなかった。
母国語で言いたいこと全部言えてるんだから、日常と比べたって、
ちょーマシ。

そんな私の言葉を、咲人は黙って聞いていた。
正確には、俺はどうしたらいいんだ?と思っていたんだと思うけど。
私はフンっとエラそうに英語で話し始めた。



「翻訳して欲しいならしてあげるけど?」

「Yes, please 」

「い、い、わ、よー。」



ひとしきり翻訳する間、咲人はまたちょいちょい
「俺はすごく良かったなんて言ってない」とか「どういう意味なの」とか挟んできたので、
私はまたコイツ面倒臭いなと辟易した。
日本語能力がゼロの相手にオールジャパニーズで苦情を言うのはフェアじゃないかもしれない。
でもこっちだって英語で話さなきゃいけないのはフェアじゃない。
(それにあたしちゃんと翻訳してあげたし元々するつもりだったもん)
咲人にしてみれば俺だって母国語じゃないぞと言いたいかもしれないけど、
日本人の英語能力に比べたら彼らの英語能力は500倍は高い。1000倍と言っても良いくらい。




「ちょっと待てよメイサ。君、8ヶ月しか勉強してないのにそんなに話せるの?」



この国に来て8ヶ月だと言った時、咲人がそう訊ねたのを覚えている。
本当に本当にほんとーーーーーに私の英語は大したことがないのだが、
少なくとも、俺とずっと英語で会話してるじゃん!?と驚く程度には話せる。
でも、ある程度の年齢と教育を経験している日本人なら、そもそもの英語能力はゼロではない。
(得手不得手はもちろんあるけど)
話すのが超下手クソだけど読んだり書いたりできる日本人は多い。
天才だ!と感動させておきたかったけれど(笑)そこは正直にそのことを伝えた。
ま、ゼロから8ヶ月でここまで話せたらスゲーわ。違うけど。トホホ




口論、というほど穏やかじゃないものではなかったけれど
そんな感じで私と彼のディスカッションがあった。
お互い良い大人なのでっていうか私はもっと激しく激怒するタイプなのだけど
電話でそれはしんどいし、遥か遠くにいる七面倒くさい人間相手にエネルギーを使う気にもならなかった。
はぁ、と私はため息をつき、とりあえずこの話題を終えることにした。
いざ客観的に見てみると、相変わらずの情熱的な態度だったなぁと思わされた。


いつもの自分通りには怒らなかったものの、言いたいことは概ね言ったかな。
でも、なんていうか。。。
咲人はどう思っただろう。
この前は、感情的になるのは悪くないとか、自分は糾弾されてると思わないとかなんとか言ってたけど
所詮は人間だし、今回は具体的に彼について言及したわけだから、また違うんじゃないかな。




ふと



彼を失うことが頭をかすめた。




「咲人」




新しい話題がひと段落した時。



私は



質問した。





続きます。



なんでMってわかったの?

2018-09-05 08:39:58 | 咲人
「家に帰ってからまず一番に何をしたかぁ?」




そう、と咲人は答えた。



こいつ毎回意味不明な質問するなぁ。
コート脱いだとか手を洗ったとか答えちゃいそうになったけど、そういうことじゃないんでしょ?



あ!と私は声を上げた。



「オッケー、家に帰って一番最初にやった重要なことね?」

「そう」

「マフィン焼いたわ」

「……マフィン」

「そ。」

「いいね。何味?」

「バナナチョコチップマフィン」

「ふーん、色は?」

「は?ブラウン(笑)」

「トッピングは?」

「え?!えーと…だから、バナナだけど…」

「興味深い」

「(笑)あんた、それ聞いてどうすんの?」

「想像してるんだよ。どんな見た目のマフィンが出来上がったのか」

「あ、そ…」




私はフライパンに油を注ぎながら言った。
今日はキッチンで料理しながら電話中だ。
彼との電話はとにかく長くなりがちなので、何か作業しながら話すことが多かった。




「私にとって、料理はストレス解消法の一つなの」

「なるほど」

「あなたは何かある?そういう趣味。あなたの頭をリセットしてくれるような」




んー、と咲人は唸った。
油の香りがして来たので、私は卵を混ぜ始めた。
ボウルの中でタトトトと小気味良い音がする。




「俺は今のところ、探してる、かな」

「あ、そう」

「そうだね。まぁでも、最近はちょっとしたアクティビティをしてる」

「ふーん?どんな?」

「仕事が終わってから、知らないところへ知らないルートで行く」




へ〜、面白そう。



「いいじゃない?」

「あぁ。でもちょっと問題があるんだよ」

「何?」




私はフライパンに勢い良く卵を流し込んだ。
ジュウゥという音に、タッタッという箸さばきの音が重なる。
咲人はどこか楽しげに答えた。




「思いがけず長旅になることが多々あるんだよ。出発した時はもう夜中なのにも関わらずさ」

「あらそう」

「俺は初めはほんの10分で終わらせようと思ってたのに、結局三、四時間になってたりする」

「ふーん?」



10分で終わる道ってつまんなくない?
それが三、四時間になるって、彼の意思とは別に先導する人がいるツアーか何かなの?
と、私がぼんやり考えていると、突然彼は笑い出した。



えっ何?!




「なんで笑ってるの?」

「君は、俺が何について話してるかわかってる?」

「は?YES」




あ、私が料理に夢中で空返事してたから確認してるの?
ごめーん、卵入れた後はさすがにちょっと適当だったかも。




「あー、えっとぉ……」

「(笑)あのさ、俺は、俺たちのことを話してたんだぜ?」

「へ?………あぁー!!」



ハハハハ!と咲人は愉しげに声を上げた。



「私との長電話のこと言ってたのね?」

「そうだよ(笑)」

「たしかに(笑)10分で終わらせてないわね(笑)」

「そう」

「オッケー咲人。よーーーくわかったわ」



私は火を止め、腕を組んでツンとアゴを上げた。



「つ、ま、り。咲人は最近、自分のストレスをすごーくいい感じに解消しているわけね?誰かさんのお、か、げ、で」



そうだな、と咲人は笑った。



「だってそのストレス解消法は、あなた一人じゃできないもんね?」

「そうだな」

「私がいいアドバイスをあげるわ」

「(笑)何だよ」

「あなたはその誰かさんに、たーくさん感謝したほうがいいわ」

「プッ。えーと…俺は十分感謝してるつもりだけど?」

「そお?彼女の話によるとまだまだ足りないみたいよ」

「マジかよ。もう一回聞いてみてよ」

「聞いたけど、そーだって。あなたこそ彼に、ちゃんと感謝してるか聞いてみたら?」

「オッケー、聞いてみる」



んー、とちょっと黙った後、やっぱり感謝してるって言ってるよ、と答えた。



「(笑)まだ足りてないんじゃない?」

「そうかな」

「そうよ。だって彼ってたまにすごーく意地悪みたいよ?彼女に対して」

「(笑)ま、そうだね」



フライパンから卵焼きを下ろす手つきは慣れたもので。
黄色い可愛らしいそれではなく、茶色い模様の入った、キリンのような卵焼きが好みだ。
ふつふつと別のコンロにかけていた鍋が音を立て始めた。
私は戸棚からパスタの袋を取り出した。
今日はフジッリ。
茹で時間を確認しながら話を続けた。




「あなたって、いつもそんなに意地悪なの?」

「まぁね」




ふーん。
咲人は喋り方はいつもエラそうだし、チョイチョイ私のことをからかってくる。
私はプライドの高いMなので誰彼構わずそういう扱いを受けたいとは到底思わない。
軽視されたり見下されていると感じる相手には私の人生からご退場いただいている。
ちゃんと敬意(って言うのも変だけど)を忘れずに可愛がってくれているうちは
まぁそんなにイヤじゃないかな、と思っていた。
咲人は愉快そうに続けた。




「俺はいつもこんな感じだよ。でも、君に対しては特に意地悪だよ」

「は?なんでよ」



Because!と咲人の声が大きくなった。



「君が、意地悪されるのが好きだからだよ」



(´⊙ω⊙`)




「え、えぇ〜!?私そんなこと言ってないんですけど!」

「そうだな。でも好きなんだろ」



む、むぅと私は黙り込んだ。
た、たしかに好きと言えば好きなんだけど、それは夜だけの話なんだけど…
ってすみませんねそんな話で(テヘペロ)
私はパスタ鍋をかき混ぜながら、I don’t knowとつれなく答えたが、咲人は楽しげに笑っていた。


正直言って、少し前から不思議に思っていた。
咲人が私と毎日のように長電話するのは、きっと私のどこかに惹かれているからだと予想できた。
勉強、という真面目な視点から考えれば日本語の練習はほぼできてないし、私の英語の練習に付き合ってるだけだ。
変わってるから研究したいって言ってたけど、それって本当?
見た目がタイプなの?でもおいそれと会える距離でもないよ。
しけこみたいの?でもおいそれ(以下同文)


彼の欲が満たせる状況なら、きっとそうなんだろうなーっと思ったけどそうでもない。
多分本当に話してて楽しいんだろうなと思ったけど、どうして楽しいんだろう。
多分私が感じているように何か相性を見出しているんだろうけど。



多分


咲人は


私がMっぽいのも気に入ってるんだろうなと


なんとなーーーくわかるのだけど


なんでわかったの?





Sの皆さぁーーーん、教えてぇーーーーー!!!




(ちなみに私は男性がSかMかは見分けられないんですが…)

(ちなみにルックスがタイプじゃないのに第一印象で惹かれる相手はどうやら毎回Sです)

(えっこれは見分けられてるに入るのか!?)




「ところで」



出来上がったパスタをモグモグしながら私は訊いた。←食いながら話すんかい




「昨日、おとといは何か雰囲気違った〜興味深くなかった〜みたいなこと言うてましたけど。
あれってどういう意味なの?」

「興味深くなかったって言ったつもりはないぜ」

「じゃ、何よ」←こんな話し方なのになぜMだとわかるのだろう

「君の雰囲気が違ったって言いたかっただけだよ」




はい?



「君の声が違った理由の1つ。俺が君が恥ずかしくなるようなこと聞いたから、だろ」

「そうね」

「だから、それのせいで何か会話の雰囲気まで変えちゃったなと思って…」




シーン。




咲人が黙ってしまったので、静寂が流れた。
まぁ私の脳内は助平なオヤジだし、元お水なのだけど
一応シラフでまともな昼の顔(昼顔だとまた違った意味になりますね。てへ♡)をしている時は
あんなに食い下がって質問されると困ってしまう。


そんな話を今更振り返されも…
もしかしてこの人、謝るつもり?



何か言ってやる気もしないので←本当ひどいひたすら黙っていると、
咲人は話題を変えようとした。




おい



ちょっと待て




そいつぁ………




無責任じゃねーか?





「ねぇ」

「ん?」

「あなたの言う通り私はあの日そんなにいい気じゃなかったのよ。
それを忘れてたのに、今あなたがその話をまた持ち出したの」

「………。」

「またイヤな気持ち思い出したわ。
どうしてまたそんな話したの。そしてどうしてそれなのに話題を変えようとしてるの?」




私の問いに、咲人はそうだな、と答え、話し始めた。




「あの夜君に居心地悪い思いさせて、良くなかったと思った。
だから、しばらく君に連絡しない方がいいと思った。
でも君は翌朝も普通にメールくれたから、ああ良かったと思って普通に連絡したんだ」

「………。」

「でも…謝ったほうがいいなとはずっと思ってたから。それを言おうとしたんだ」




咲人の口調はキザなままだったけど、エラそうではなかった。




「俺の謝罪を受け入れてくれる?」




私は





「That’s not smart at all, Sakito」





超ダサいわと答えた。







続きます!