私はアイアンに返信しながら歩いて、アイスを食べ終わった。
ふと見ると、いつものように追加メールが来ていて、
君にこんなやらしいことしたい!!!と激しくどうでも良い内容が書かれていた。
無視した。
私は石畳の少しだけ高くなっているところに腰掛けた。
日本にいた頃は靴で歩くところに座るのは抵抗があったけど、
今じゃすっかり慣れたなぁ。
気にするべき人の目も無いしね。
コンパクトと口紅を出してササッと見た目を整えた。
アイアンに会うなら完璧な状態で会いたい。
それはまぁ別に彼が好きだからではなく、
単純に女の身だしなみというかプライドというか……な気持ちからだった。
メールアプリを開き、彼からのメッセージに返信しようとしていたその時だった。
「Excuse me... excuse me」
視界にジーンズの脚が二本入ってきた。
声はその上から聞こえる。
見上げると、パーカーにキャップ、サングラスの男性が立っていた。
「(あ、私に話しかけてたのか)はい?」
「すみません、日本人ですか?」
「(えっわかるの?)えぇ、そうです」
「やっぱり。実は俺、日本に居たことがあるんです」
と、彼はサングラスを外した。
日本人にはなかなか無い深いTゾーンの谷に、可愛い水色のタレ目がのぞいていた。
彼は笑顔でコンニチワと続けた。
「へぇ日本に?旅行ですか?それとも仕事で?」
「仕事です。子供のためのサッカーコーチをしてました」
「へぇ。すごい。だから私が日本人だってわかったのね」
「え?」
「大抵みんなニーハオって話しかけて来るのよ。中国語。
日本人と韓国人と中国人を見分けるのは難しいわ」
「そんなに難しくないよ。中国人は違う。見分けられないのは学がない人だけだよ」
辛辣なのね、とちょっと笑ってしまった。
間違われても、私は気にしないのだけど。
(見分けられる方がすごくないか)
「じゃ、あなたは日本語がとてもお上手なはずね」
「本当に少ししか喋れないよ」
「そう?」
「流暢になるために日本語のクラスを受けるところなんだ。まさに今夜」
「へぇーーーーー。どの教科書を使うの?」
「え?」
実は私は、趣味で日本語を教えるボランティアをしている。
教科書の有名どころなら知っているのだ。
彼の話では、今夜が実は初回で、会話にフォーカスしてるレッスンだから教科書はないと思うと言った。
うそくさい。
…………まぁまぁまぁ。
言語の話題はナンパの常套句なので、責める気にもなりません。
「君、名前は?」
「メイサよ。」
「Nice to meet you Meisa. What are you doing here. It’s beautiful weather today isn’t it?」
「えっと…今日はオフなの。すっごくいい天気だからどこか行きたくて。でも特にプランはないんだけど…」
「奇遇だね。俺もオフなんだ」
「そうなの。あなたは何ていうの?」
「俺はタンク」
ヨロシクねと言うと、こちらこそと彼は微笑んだ。
「よかったら、君にお茶をご馳走したいんだけど、どうかな?」
あら。
「えっと…今?」
「そのつもりだったけど、もし都合が悪ければ勿論いつでも」
「んー」
『どこか2人きりで会える場所探してるよ』
アイアンのメールが浮かんだけど
んー、こういう時にキチンとしようって気にならないっていうか
優先順位を高くつけられないのが
私達の関係を物語っている。
私はオトモダチがいたことがないのだけど
多分ちゃんとオトモダチだと決めて会っている人達なら
そういうところも人として常識に沿ったことをするんだと思う。
だけど、少なくともアイアンは自分のこと好きにさせるために努力中で、
その最中は当然、俺らただのオトモダチですよ〜話はできない(彼はね)。
だからこんな中途半端な感じになってるんだ。
私は思った。
………ま、会えるかも、ホントに会う気があるのかも、わかんないしな。
「OK」
私は立ち上がった。タンクは笑顔で私をエスコートした。
トイレに行って、1通だけアイアンにメールを打った。
『明日会えるの、楽しみにしてるわ』
「ケーキもあるよ。よかったら食べたら?」
メニューを差し出され、私はエット…と戸惑った。
さっきアイス食べたんだよなあ。
私の反応に、遠慮しているのだと思ったらしく、頼むよ、と彼はカッコつけてくれた。
ショウケースの中からケーキを選ぶ時も、そしてそれを食べている時も、
常時彼はスマートだった。
こう言うと申し訳ないんだけど、ラフな服装からイメージしたのとはだいぶ違った。
「メイサ、俺のも少し食べてよ」
「あぁ、ありがとう」
「クリームとナッツもちゃんと取ってね」
私が美味しいと微笑むと、彼は自分のケーキの美味しそうなところを切り取り、
私のお皿に勝手に乗せてくれた。
「あ、」
「いいのいいの。」
「じゃ、私のも…」
「後でね」
結局彼が私のケーキを食べることはなかった。
私は、私のカップに紅茶を注ぐ彼をしげしげと見つめた。
どうして
タンクトップ一丁なのかしら。
席に着くなり、彼は着ていたパーカーを脱いでタンクトップ一枚になった。
しかもピンク。
ちなみにキャップはかぶったままだ。
綺麗なブロンズカラーの腕はムキムキで、絞り切ってる。
なるほどタンクトップが彼の特攻服なのね、と納得した。
彼はちょうどジムから出てきたばかりだと言った。
彼とのティータイムはそんなに悪くなかった。
彼はいわゆるちょっと語っちゃう系の男だったけど、とにかく紳士的だったし、
別に私のことや他の人のこと見下す発言はしなかった。
ケーキを勝手に分けてくれたけど、私がバタークリームは嫌いなのと言っても
嫌な顔をしなかったし。
極め付けは
「メイサ、これ」
トイレから戻った私に、彼はお店のペーパーナプキンを差し出した。
何か書いてあった。
「俺の電話番号。君に渡させて」
ほーーーーーー
私には聞かないのね。
私は笑顔で受け取った。
「オッケー。ありがとう」
「今日はすごく楽しかったよ。本当にありがとう」
「こちらこそ。ご馳走さまでした」
じゃぁね、と笑顔で手を振って分かれた。
この後はまた仕事だ。
大通りを急ぎながらメールボックスを開くと、5件の新着メッセージがあった。
全部アイアンからだった。
続きます!
ふと見ると、いつものように追加メールが来ていて、
君にこんなやらしいことしたい!!!と激しくどうでも良い内容が書かれていた。
無視した。
私は石畳の少しだけ高くなっているところに腰掛けた。
日本にいた頃は靴で歩くところに座るのは抵抗があったけど、
今じゃすっかり慣れたなぁ。
気にするべき人の目も無いしね。
コンパクトと口紅を出してササッと見た目を整えた。
アイアンに会うなら完璧な状態で会いたい。
それはまぁ別に彼が好きだからではなく、
単純に女の身だしなみというかプライドというか……な気持ちからだった。
メールアプリを開き、彼からのメッセージに返信しようとしていたその時だった。
「Excuse me... excuse me」
視界にジーンズの脚が二本入ってきた。
声はその上から聞こえる。
見上げると、パーカーにキャップ、サングラスの男性が立っていた。
「(あ、私に話しかけてたのか)はい?」
「すみません、日本人ですか?」
「(えっわかるの?)えぇ、そうです」
「やっぱり。実は俺、日本に居たことがあるんです」
と、彼はサングラスを外した。
日本人にはなかなか無い深いTゾーンの谷に、可愛い水色のタレ目がのぞいていた。
彼は笑顔でコンニチワと続けた。
「へぇ日本に?旅行ですか?それとも仕事で?」
「仕事です。子供のためのサッカーコーチをしてました」
「へぇ。すごい。だから私が日本人だってわかったのね」
「え?」
「大抵みんなニーハオって話しかけて来るのよ。中国語。
日本人と韓国人と中国人を見分けるのは難しいわ」
「そんなに難しくないよ。中国人は違う。見分けられないのは学がない人だけだよ」
辛辣なのね、とちょっと笑ってしまった。
間違われても、私は気にしないのだけど。
(見分けられる方がすごくないか)
「じゃ、あなたは日本語がとてもお上手なはずね」
「本当に少ししか喋れないよ」
「そう?」
「流暢になるために日本語のクラスを受けるところなんだ。まさに今夜」
「へぇーーーーー。どの教科書を使うの?」
「え?」
実は私は、趣味で日本語を教えるボランティアをしている。
教科書の有名どころなら知っているのだ。
彼の話では、今夜が実は初回で、会話にフォーカスしてるレッスンだから教科書はないと思うと言った。
うそくさい。
…………まぁまぁまぁ。
言語の話題はナンパの常套句なので、責める気にもなりません。
「君、名前は?」
「メイサよ。」
「Nice to meet you Meisa. What are you doing here. It’s beautiful weather today isn’t it?」
「えっと…今日はオフなの。すっごくいい天気だからどこか行きたくて。でも特にプランはないんだけど…」
「奇遇だね。俺もオフなんだ」
「そうなの。あなたは何ていうの?」
「俺はタンク」
ヨロシクねと言うと、こちらこそと彼は微笑んだ。
「よかったら、君にお茶をご馳走したいんだけど、どうかな?」
あら。
「えっと…今?」
「そのつもりだったけど、もし都合が悪ければ勿論いつでも」
「んー」
『どこか2人きりで会える場所探してるよ』
アイアンのメールが浮かんだけど
んー、こういう時にキチンとしようって気にならないっていうか
優先順位を高くつけられないのが
私達の関係を物語っている。
私はオトモダチがいたことがないのだけど
多分ちゃんとオトモダチだと決めて会っている人達なら
そういうところも人として常識に沿ったことをするんだと思う。
だけど、少なくともアイアンは自分のこと好きにさせるために努力中で、
その最中は当然、俺らただのオトモダチですよ〜話はできない(彼はね)。
だからこんな中途半端な感じになってるんだ。
私は思った。
………ま、会えるかも、ホントに会う気があるのかも、わかんないしな。
「OK」
私は立ち上がった。タンクは笑顔で私をエスコートした。
トイレに行って、1通だけアイアンにメールを打った。
『明日会えるの、楽しみにしてるわ』
「ケーキもあるよ。よかったら食べたら?」
メニューを差し出され、私はエット…と戸惑った。
さっきアイス食べたんだよなあ。
私の反応に、遠慮しているのだと思ったらしく、頼むよ、と彼はカッコつけてくれた。
ショウケースの中からケーキを選ぶ時も、そしてそれを食べている時も、
常時彼はスマートだった。
こう言うと申し訳ないんだけど、ラフな服装からイメージしたのとはだいぶ違った。
「メイサ、俺のも少し食べてよ」
「あぁ、ありがとう」
「クリームとナッツもちゃんと取ってね」
私が美味しいと微笑むと、彼は自分のケーキの美味しそうなところを切り取り、
私のお皿に勝手に乗せてくれた。
「あ、」
「いいのいいの。」
「じゃ、私のも…」
「後でね」
結局彼が私のケーキを食べることはなかった。
私は、私のカップに紅茶を注ぐ彼をしげしげと見つめた。
どうして
タンクトップ一丁なのかしら。
席に着くなり、彼は着ていたパーカーを脱いでタンクトップ一枚になった。
しかもピンク。
ちなみにキャップはかぶったままだ。
綺麗なブロンズカラーの腕はムキムキで、絞り切ってる。
なるほどタンクトップが彼の特攻服なのね、と納得した。
彼はちょうどジムから出てきたばかりだと言った。
彼とのティータイムはそんなに悪くなかった。
彼はいわゆるちょっと語っちゃう系の男だったけど、とにかく紳士的だったし、
別に私のことや他の人のこと見下す発言はしなかった。
ケーキを勝手に分けてくれたけど、私がバタークリームは嫌いなのと言っても
嫌な顔をしなかったし。
極め付けは
「メイサ、これ」
トイレから戻った私に、彼はお店のペーパーナプキンを差し出した。
何か書いてあった。
「俺の電話番号。君に渡させて」
ほーーーーーー
私には聞かないのね。
私は笑顔で受け取った。
「オッケー。ありがとう」
「今日はすごく楽しかったよ。本当にありがとう」
「こちらこそ。ご馳走さまでした」
じゃぁね、と笑顔で手を振って分かれた。
この後はまた仕事だ。
大通りを急ぎながらメールボックスを開くと、5件の新着メッセージがあった。
全部アイアンからだった。
続きます!