木村草太著、『憲法の創造力』(NHK出版新書、2013年8月10日第6刷に基づく電子書籍)を読み終わったのは、実はもう1週間ほど前なんですが、仕事の関係上ようやく今日落ち着いて書評を書く時間ができました。
まずは目次から。内容が分かりやすいように第二見出しも書きだします。
<目次>
はしがき 憲法を創る
序章 憲法とは何か?
- 国家と憲法の定義
- 近代主権国家と立憲主義
- 統治機構の原理
- 憲法上の権利保障
- 本書の課題
第1章 君が代不起立問題の視点ーなぜ式典で国歌を斉唱するのか?
- 嫌いな歌が国家だったら
- 平成19年のピアノ伴奏拒否事件判決
- 平成23年の起立・斉唱命令判決
- 原告の本来的主張と「保守派」の反論
- 最高裁の考える君が代斉唱の意義
- 最高裁の肩透かし
- しかし詭弁のような…
- 教育目的を実現する最善の手段か?
- 安全配慮義務に反しないか?
- これはパワハラではないのか?
- 第1章まとめ
第2章 一人一票だとどんな良いことがあるのかークイズミリオネアとアシモフのロボット
- 「足による投票」
- 1人別枠制に対する従来の見解
- 唐突な最高裁判決
- 投票価値の均衡は絶対の要請か?
- 一人一票の根拠
- 「全国民の代表」の概念
- クイズミリオネア
- 「正解」の発見
- われはロボット
- 「正統性」の感覚
- 1人別枠制の評価
- 第2章のまとめ
第3章 最高裁判所は国民をナメているのか?-裁判員制度合憲の条件
- 「それは、あなたのためだから」
- 裁判員制度
- 三つの違憲論
- 「迅速な」裁判を受ける権利
- 憲法上の自由権
- 「意に反する苦役」からの自由
- 国民の司法参加が必要な理由
- 制度提案時の議論
- 足りないのは国民の理解?
- 刑事裁判は近寄りがたい?
- 「裁判所の判断」には二種類ある
- 国民のための勉強会?
- 裁判員制度はやはり必要?!
- 第3章まとめ
第4章 日本的多神教と政教分離ー一年は初詣に始まりクリスマスに終わる
- キリスト教徒の方でも大丈夫です?!
- B氏は仏教徒…なのか?
- 日本的多神教
- 宗教とは何か?
- 「信じる」という言葉の意味
- 「信じていない」けど「信じている」ーーボーアの蹄鉄
- 日本国憲法と信教の自由
- 日本国憲法と政教分離
- 国家は宗教を一切利用してはならないのか?
- 結局は目的だけ?
- 日本的多神教は利用しやすい
- 「悪意」のない冒涜
- 厳格な判断基準の必要性
- 第4章まとめ
- 第4章補論 空知太神社事件と白山ひめ神社事件
第5章 生存権保障の三つのステップー憲法25条1項を本気で考える
- ある若手建築家の発言
- 憲法25条とは何か?
- 生存権の保障の根拠
- 生活保護法はどんな制度?
- 生活扶助基準を変えた朝日訴訟
- 憲法25条第1項は十分に実現された?
- 住居の質と住宅市場
- 「みんなの家」とコミュニティー回路
- 他者からの承認という社会問題
- 被災者支援の三つのステップ
- 国家は生存権保障コストをどこまで負うべきか?
- 第5章まとめ
第6章 公務員の政治的行為の何が悪いのか?-国民のシンライという偏見・差別
- プロをナメるな!
- 公務員法の政治的行為規制
- 大阪市条例による規制範囲の拡張
- 公務員の中立性
- 権限・地位の濫用は絶対に許されない
- 私的な政治的行為も許されない?
- 推定をめぐる「専門的」な議論
- そもそも「国民の信頼」は目的として正当なのか?
- 国民のシンライ
- 平成24年の二つの判決
- 管理職かどうか、は事案を分けるか?
- 第6章まとめ
終章 憲法9条の創造力
- 小久保蝶を保護する隊
- 憲法9条の政府解釈
- 憲法9条は意外と柔軟
- 憲法9条の本当の意義
- 憲法9条は「ふつう」ではない?
- 憲法9条と集団安全保障
- 「非武装を選択できる世界」の創造
文献案内
『憲法の創造力』(NHK出版新書)は、『キヨミズ准教授の法学入門』(星海社新書)や『テレビが伝えない憲法の話』(PHP新書)に比べると、法学的専門性がぐっと上がる感じです。扱われている問題は、「君が代」や「生存権」や「信教の自由」など、意識するかしないかは別として、比較的日常的な問題ですが、そうしたものを憲法的視点から切り込んで、関連する判例を引き合いに出しながら論じていくという構成なので、パッと見て分からない部分が割と多くなります。そのまま引用されている判決文などはその「分からない部分」の最たるものですが、そこで途方に暮れることはありません。そうした小難しいものはちゃんと「木村節」ともいえる解説スタイルで噛み砕いて説明されていますし、各章のまとめで復習もできるため、内容が比較的記憶に残りやすい構成です。
この本は法律専門書でないことは確かですが、本当に「一般向け」なのかどうかは一般人にどれだけの知性・理解力・忍耐力を前提とするかで意見の分かれるところでしょう。
この本を読むと、「最高裁はそれでいいのか」という疑問が強くなります。ここで扱われた判例では、意外と基本的人権に含まれる様々な権利が軽視される傾向が強いことが窺われます。「大義」があれば個人の権利はある程度制限されても仕方がないことはあるでしょうが、その「大義」が本当に正当性を持つものなのかという検証が疎かにされてはいけないはずなのですが、実際には疎かにされがちなようです。
大変勉強になりました。