『サイレントウォー 見えない放射能とたたかう』(講談社)は2012年11月に発行された本で、この手の最新情報というわけではありませんが、放射能の基本を知り、放射能との付き合い方を学ぶには優れた本だと思います。
小出裕章氏の元同僚であり、反原発運動に関しては同士でもある著者ですが、そのノリは大分違うようです。今西氏の言葉遣いは実に親しみやすく、ところどころ笑いを禁じ得ない表現が混じっています。一番可笑しかったのは核分裂の説明です(p216):
原子核という狭い場所に、92個の陽子と43個の中性子が、ぎゅうぎゅう詰めになっていると考えてください。
その原子核に中性子が衝突してもうひとつ入ってくると、ウラン235の原子核は「もうたまらん」と、2個の原子核に割れます。これが「核分裂」です。
「もうたまらん」ってなんやねん?と思わず突っ込みたくなる表現ですが、陽子や中性子が「ぎゅうぎゅう詰め」というのもかなり妙な感じがして、化学がぐっと身近な感じになりますね。
放射線被曝に関してもどれくらいまでは「しゃーない」と我慢できるレベルなのか分かりやすく解説されています。
目次は以下の通りです。
序章 ”フクシマ後の世界”を生き抜くために
第1章 放射能を「正しく恐がる」ための基礎知識
第2章 被曝にともなう影響、これからどうなる?
第3章 外部被曝にどう対処するか
第4章 内部被曝にどう対処するかー食品の放射線量を知る
第5章 さらに詳しく知りたい人へ
巻末資料 私の原爆体験記 今西茂子
おわりにかえて
著者は原子力工学の専門家の立場から、一貫して、原子力の否定的側面に注目し明らかにしていこうと、「原子力をやめることに役立つ研究」を続けていますが、そのことと自身が被爆2世であることは「関係ない」そうです( ´∀` )
それはともかく、第2章の「被曝量は、お金に置き換えると実感しやすい」という項は斬新なセンスだと思います(p69-70)。
1μ㏜ 10円 (妊婦・乳幼児・子ども 100円)
10μ㏜ 100円 (妊婦・乳幼児・子ども 1000円)
100μ㏜ 1000円 (妊婦・乳幼児・子ども 1万円)
1000μ㏜(1mSv) 1万円 (妊婦・乳幼児・子ども 10万円)
1000mSv(1Sv) 1000万円 (妊婦・乳幼児・子ども 1億円)
金額は落としてしまった時に感じる「痛み」として解釈します。年間5ミリシーベルトは5万円どこかに落としてしまった感覚になるわけです。年間20ミリシーベルトだと、20万円、子どもの場合なら200万円に相当します。政府が年間20ミリシーベルトなら大人も子どもも帰還するよう強要するということはつまり、彼らに毎年20万円または200万円損をしろと言っているようなものです。この金額換算の比喩なら「とんでもなさ」が感覚的により分かりやすくなるのではないでしょうか。
むやみやたらに怖がったり、神経質になるのもよくありません。「フクシマ後の世界」を生きるということは、ある程度の汚染と共に生きざるを得ないということを意味します。その中で、正しい知識を持ち、どれくらいまでの被曝なら我慢できるのかという個人の判断基準を養う必要があります。そのためにぜひ覚えておきたいのはベクレル(汚染度)をシーベルト(被曝量)に換算する方法ですね。計算はごく単純な掛け算で、
汚染度(ベクレル/㎏) X 摂取量(㎏) x 実効線量係数 = マイクロシーベルト
となります(p172)。
実効線量係数は放射性物質や摂取経路または年齢によって変わりますが、数字はICRPなどで公表されています。
今後絶対に必要になってくるのは食品の汚染度の明記ですね。基準値以下か否かだけではなく、正確な数値が明記されていれば、個人の判断で「まあこれくらいなら」と買って食べたり、「自分はいいけど子ども(または孫)にはダメね」と買い控えたりすることが可能になります。そこをはっきりさせずにただ「安全です」と言っても信用できるわけありません。風評被害を払拭するというなら、情報公開こそ最も重要なのではないでしょうか。