徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:小出裕章著、『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』(毎日新聞出版)

2017年08月06日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』(毎日新聞出版)は2015年9月に発行された本で、小出氏が京大退官後に初めて書き下ろしたものです。

とは言え、内容的には他の著書と重複する部分もあります。本書の出発点は、福島第一原発事故が発生して「原子力緊急事態宣言」が出され、それが今もって解除されていないという事実です!

日本は緊急事態宣言下にあるのです。福島第一原発事故も収束どころか廃炉の目処も本当のところは立っていません。それなのに東京オリンピックで浮かれ騒ぐなんておかしいと思いませんか?

目次は以下の通りです。

はじめに

第1章 原子力緊急事態は今も続いている
コラム 原発事故関連死で東電を断罪!

第2章 福島第一原子力発電所は今、どうなっているか
コラム 半減期の長い放射性物質を、半減期の短い放射性物質に変換できるか

第3章 日本は原発廃炉の時代に突入した
コラム 京都大学原子炉実験所が廃炉を選択できなかった理由

第4章 不都合な事実を黙殺する日本のメディア
コラム 「種まきジャーナル」終了の真相とその後

第5章 原子力マフィアの復権を許してはいけない
コラム 反原発科学者・水戸巌さんの遺志を継ぐ

第6章 原発・戦争国家へと突き進む政府の暴走を食い止める

おわりに

子どもの甲状腺がんが多発していることは周知の事実ですが、その原因としていかなる疫学的研究も経ずに取り敢えず「原発事故との関連は考えにくい」と関連を否定し続ける御用学者たちの姑息さを非科学的と断罪しましょう。

「原発事故で死者は一人も出ていない」も明らかな間違いで、「原発事故関連死」と公式に認定されているだけでも2014年9月末時点で1793人いました(p.39)。著者は認定されていない人も含めて3000人は下らないと見ています。

福一が未だに汚染を垂れ流し続けていることも周知の事実のはずですが、日本国民の多くはそれをどうやら忘れているっぽいようです。「風評被害払拭」キャンペーンなど小手先の対策を講じても、事実として汚染があるので、世界の半数以上が日本からの食品輸入を規制しています(p.91)。農林水産省の公表している「諸外国・地域の規制措置(平成29年3月17日現在)」で、その事実が確認できます。状況は本書で言及されている平成27年5月22日のデータとほとんど変わっていません。汚染食品は国内で消費する以外は無いのです。著者は「R60(60禁)コーナー」を設けて、放射能の感受性が低くなっている60歳以上の人が汚染食品を引き受けたらどうかと提案しています(p.93)。賛否両論あるかと思いますが、大前提として、食品の汚染度をきちんと検査して情報公開することがなくてはなりません。それを踏まえた上で個々人がどこまで我慢して汚染を受け入れるかを判断していけばいいと思います。

事故前にも、散々大気中で原水爆実験が行われた上に、チェルノブイリ事故による汚染も日本に到達したこともあり、食品の汚染度もゼロではなく0.1ベクレル/㎏くらいあることも多かったと言います。ですから、このくらいのレベルの汚染は、『サイレントウォー』で今西氏も言うように「しゃーない」と受け入れるしかないのではないでしょうか。

これだけの過酷事故を起こし、汚染を垂れ流し、放射性廃棄物処理の目処も立っておらず、各原発サイトの仮置きスペースも殆ど満杯に近づいているにもかかわらず、日本が原発から足を洗えない理由の一つは【日米原子力協定】にあると本書で指摘されています(p.127)。

第12条4項

両当事国政府は、いずれか一方の当事国政府がこの協定の下での協力を停止し、この協定を終了させ及び返還を要求する行動を取る前に、必要な場合には他の適当な取極を行うことの必要性を考慮しつつ、是正措置をとることを目的として協議し、かつ、当該行動の経済的影響を慎重に検討する

ここで分かることは、原子力を止めようとする時は米国の承認が必要であるということと、その判断が経済優先でなされるということです。

米国自身は1974年に原子力から撤退を始めており、既に原子炉を生産するラインを失っていて、原子炉のパテントと濃縮ウランを山ほど抱えているため、これをお金に変えるために、国外に原子炉を売りつけ、燃料も売りつけようとしています。それに日本が利用されているという構図です。ついでに放射能の危険性も押し付けられていると考えて間違いなさそうです。

日米地位協定に負けず劣らず日本の害にしかならない日米原子力協定も、小出氏がここで提言しているように、速やかに破棄されるべきでしょう。

米国の属国ではなく、真の独立国を目指さないと、日本はいずれ戦争にも突き進んでいき、放射能まみれになり、「国破れて山河もない」事態になりかねません。のんきにオリンピックやってる場合じゃないと思うんですけど。


書評:小出裕章著、『騙されたあなたにも責任がある 脱原発の真実』(幻冬舎)

書評:一ノ宮美成・小出裕章・鈴木智彦・広瀬隆他著、『原発再稼働の深い闇』(宝島社新書)

書評:小出裕章&西尾正道著、『被ばく列島~放射線医療と原子炉』(角川oneテーマ21)

書評:小出裕章著、『原発のウソ』(扶桑社BOOKS)

書評:今西哲二著、『サイレントウォー 見えない放射能とたたかう』(講談社)

書評:小出裕章&高野孟著、『アウト・オブ・コントロール 福島原発事故のあまりに苛酷な現実』(花伝社)


化学療法の準備~ドイツの健康保険はかつら代も出す(がん闘病記2)

2017年08月06日 | 健康

今週は、来週から始まる化学療法のための準備に費やしました。7月31日にがん専門クリニックに初面談に行き、治療期間とか副作用とかそういったことを話し合いました。
「抗がん剤は点滴にするけど、静脈はどんな感じ?」と聞かれたので、「細くて隠れてるので、採血も点滴もよほどうまい人でないと一発でうまく針が入らない」と言うと、「ではCVポート(Portsystem)にしましょう」と方針決定。これは中心静脈カテーテル(Zentralvenöser Katheter)の一種で、日本語の正式名称は【皮下埋め込み型ポート】というようで、上の写真のようなものです(詳しくはこちら)。

というわけで、がん専門クリニックからマルテーザー病院に戻り、手術および諸々のリスクについての説明を受けた上で同意書にサインし、翌日8月2日午後に日帰りで手術を受けました。午前11時に病院に来るように言われ、手術待機室に連れて行かれたのが12時過ぎ。手術室に運ばれたのは午後1時半頃でした。救急患者が搬送されてきたりするので、仕方がないと言えば仕方ないのですが、もうちょっとどうにかならないかなと思わずにはいられません。

埋め込み手術が終わり、目覚めルームで目を覚ましたのは午後2時半くらい。ポートが正しく設置されているか確認するためにそのままレントゲンに回されました。

短期間に3度目の手術となりましたが、これは前回2回の手術と比較にならない程、麻酔覚醒後に強烈な痛みを感じました。吐き気などの麻酔の副作用などは一切なく、ただただ痛かった!「こんなに痛いなんて聞いてない!!!」と文句を言いたくなるほど痛かったです

まずイブプロフェンの錠剤をもらいましたが、全然効かなかったので、待機室に戻ってからNovalginの点滴を3本入れてもらって、漸く我慢できるレベルまで下げることができました。そして執刀医および麻酔医の問診を受けて晴れて午後8時に病院を出ることができました。

翌8月4日に、またコントロールのために病院に行き、例によって例のごとく散々待たされた後に短い診察を受けて、絆創膏を交換してもらいました。それだけのことに4時間つぶれ、どっと疲れが出て、帰宅後はふて寝しました。

さて、多くの化学療法同様、私の受けることになる化学療法も頭髪を失うことになるのが確実なので、がん専門クリニックで頭髪喪失証明証兼かつらの処方箋を発行してもらいました。私の方から何か働きかけたわけでなく、全くのルーチンワークのようでした。

このかつらの処方箋を持ってかつらショップに行けば、健康保険にかつら代を出してもらえるわけです。通院のタクシー代とかは知ってましたけど、かつら代にはさすがに驚きました。

がん専門クリニックの看護師さんの話では、髪が落ちる前にかつらショップに行った方がいいとのことだったので、早速金曜日に行ってきました。

何事もポジティブに考えて、楽しもうと心がけているので、もちろんかつらショップでも少々遊ばせてもらいました。

   

金髪も意外に似合うと評判でしたが、選んだのは手入れの簡単な無難なショートカット。

総額は575ユーロで、健康保険は最高404.60ユーロ出してくれます。私は自己負担分の170.40ユーロをその場で払いました。残額はショップと保険の間で直接清算されることになっています。

かつらに出してくれる金額は保険によって違います。404.60ユーロというのは法定健康組合数社の限度額です。


今週はマルテーザー病院から入院費の請求書も来ました。

11日間の入院で、トータル110ユーロです。もちろんこれは自己負担分のみの請求で、実際の入院および手術費用の総額は不明です。民間保険であれば、総額の請求が患者に来ますが、法定健康保険組合の場合は請求が保険の方に直接行ってしまうので、費用に関して患者は蚊帳の外です。この点は、「医療費はタダ」のような誤った感覚を冗長させるという批判もあります。私自身も請求書のコピーくらいは欲しいなとは思います。ただの好奇心からですが。

それでも「医療費はタダ」などと思ったことは一度もありません。なにせ毎月約680ユーロが健康保険料として支払われていますから。私の負担分は361ユーロで、残りは雇用者が払っているわけですけど、年金保険料に次ぐ大きなポジションです。

 

ところで、がん専門クリニックに行った翌日にクリニックから私の主治医宛の手紙のコピーが届きました。CVポート埋め込みの件と8月8日から化学療法が開始される旨を知らせるものでしたが、その後に「稀に臓器損傷、生命の危険または死に至ることがある」とまるで何でもないことのようにさらっと書いてあってびっくりしました( ゚Д゚)

確かに、インフォームドコンセントでそのようなリスク諸々について知らされていましたけど、患者用資料は補足的な説明が多く、不安にはなっても、かえって本質的なリスクを把握しにくい面もなくはないと思います。

しかし医者同士のやり取りではそうした「盛り」が一切削ぎ落とされ、端的な事実が言及されているわけです:臓器損傷、生命の危機または死(Organschäden, Lebensgefahr und Tod)。これはかなりぐっさりと心に刺さりますね。しばらく言葉を失っていました。

しばらくして「稀に」という言葉に一種の希望を見出して、気持ちを立て直した次第です。なかなか心の平静を保つのは難しいですね。

 

退院してから一週間以上になりますが、毎朝の血栓症防止注射 Clexane を自分で注射することにまだ慣れずに試行錯誤を繰り返してます。

刺す場所や角度によって痛みが強かったり、青あざが大きくなったりするので、難しいです。

太腿はもう注射跡だらけ。あと5週間がまん。

 

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唐突ながん宣告~ドイツの病院体験・がん患者のための社会保障(がん闘病記1)

書評:Kelly A. Turner著、『9 Wege in ein krebsfreies Leben(がんが自然に治る生き方)』(Irisiana)