『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』(毎日新聞出版)は2015年9月に発行された本で、小出氏が京大退官後に初めて書き下ろしたものです。
とは言え、内容的には他の著書と重複する部分もあります。本書の出発点は、福島第一原発事故が発生して「原子力緊急事態宣言」が出され、それが今もって解除されていないという事実です!
日本は緊急事態宣言下にあるのです。福島第一原発事故も収束どころか廃炉の目処も本当のところは立っていません。それなのに東京オリンピックで浮かれ騒ぐなんておかしいと思いませんか?
目次は以下の通りです。
はじめに
第1章 原子力緊急事態は今も続いている
コラム 原発事故関連死で東電を断罪!
第2章 福島第一原子力発電所は今、どうなっているか
コラム 半減期の長い放射性物質を、半減期の短い放射性物質に変換できるか
第3章 日本は原発廃炉の時代に突入した
コラム 京都大学原子炉実験所が廃炉を選択できなかった理由
第4章 不都合な事実を黙殺する日本のメディア
コラム 「種まきジャーナル」終了の真相とその後
第5章 原子力マフィアの復権を許してはいけない
コラム 反原発科学者・水戸巌さんの遺志を継ぐ
第6章 原発・戦争国家へと突き進む政府の暴走を食い止める
おわりに
子どもの甲状腺がんが多発していることは周知の事実ですが、その原因としていかなる疫学的研究も経ずに取り敢えず「原発事故との関連は考えにくい」と関連を否定し続ける御用学者たちの姑息さを非科学的と断罪しましょう。
「原発事故で死者は一人も出ていない」も明らかな間違いで、「原発事故関連死」と公式に認定されているだけでも2014年9月末時点で1793人いました(p.39)。著者は認定されていない人も含めて3000人は下らないと見ています。
福一が未だに汚染を垂れ流し続けていることも周知の事実のはずですが、日本国民の多くはそれをどうやら忘れているっぽいようです。「風評被害払拭」キャンペーンなど小手先の対策を講じても、事実として汚染があるので、世界の半数以上が日本からの食品輸入を規制しています(p.91)。農林水産省の公表している「諸外国・地域の規制措置(平成29年3月17日現在)」で、その事実が確認できます。状況は本書で言及されている平成27年5月22日のデータとほとんど変わっていません。汚染食品は国内で消費する以外は無いのです。著者は「R60(60禁)コーナー」を設けて、放射能の感受性が低くなっている60歳以上の人が汚染食品を引き受けたらどうかと提案しています(p.93)。賛否両論あるかと思いますが、大前提として、食品の汚染度をきちんと検査して情報公開することがなくてはなりません。それを踏まえた上で個々人がどこまで我慢して汚染を受け入れるかを判断していけばいいと思います。
事故前にも、散々大気中で原水爆実験が行われた上に、チェルノブイリ事故による汚染も日本に到達したこともあり、食品の汚染度もゼロではなく0.1ベクレル/㎏くらいあることも多かったと言います。ですから、このくらいのレベルの汚染は、『サイレントウォー』で今西氏も言うように「しゃーない」と受け入れるしかないのではないでしょうか。
これだけの過酷事故を起こし、汚染を垂れ流し、放射性廃棄物処理の目処も立っておらず、各原発サイトの仮置きスペースも殆ど満杯に近づいているにもかかわらず、日本が原発から足を洗えない理由の一つは【日米原子力協定】にあると本書で指摘されています(p.127)。
第12条4項
両当事国政府は、いずれか一方の当事国政府がこの協定の下での協力を停止し、この協定を終了させ及び返還を要求する行動を取る前に、必要な場合には他の適当な取極を行うことの必要性を考慮しつつ、是正措置をとることを目的として協議し、かつ、当該行動の経済的影響を慎重に検討する。
ここで分かることは、原子力を止めようとする時は米国の承認が必要であるということと、その判断が経済優先でなされるということです。
米国自身は1974年に原子力から撤退を始めており、既に原子炉を生産するラインを失っていて、原子炉のパテントと濃縮ウランを山ほど抱えているため、これをお金に変えるために、国外に原子炉を売りつけ、燃料も売りつけようとしています。それに日本が利用されているという構図です。ついでに放射能の危険性も押し付けられていると考えて間違いなさそうです。
日米地位協定に負けず劣らず日本の害にしかならない日米原子力協定も、小出氏がここで提言しているように、速やかに破棄されるべきでしょう。
米国の属国ではなく、真の独立国を目指さないと、日本はいずれ戦争にも突き進んでいき、放射能まみれになり、「国破れて山河もない」事態になりかねません。のんきにオリンピックやってる場合じゃないと思うんですけど。