徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

ドイツ:ニーダーザクセン州議会選挙結果(2017年10月15日)

2017年10月16日 | 社会

10月15日日曜日はニーダーザクセン州の州議会選挙でした。連邦議会選挙後初の地方選挙ということで、中央政権の連立交渉に参考になる所見が得られるかどうかと注目されていました。

ニーダーザクセン州はVWの本拠地であり、大株主でもあるため、ディーゼル排ガス不正や事件州首相とVWの癒着の有無などで揺れていました。政権はドイツ社会民主党(SPD)と緑の党の連立でした。そういうタイミングで緑の党の議員の一人が党を去り、キリスト教民主同盟(CDU)に移籍したことで連立政権の過半数が崩れたために解散選挙となった次第です。「なにそれ?」と呆れるくらいのドタバタ劇ですが、そういう変なことがドイツでも起こり得るということです。

同日に行われたオーストリアの国民議会選挙と違って、ニーダーザクセン州議会選挙はすでに正式な結果が出ています。オーストリア国民議会選挙の正式結果は木曜日に出るそうですので、その後にこのブログでもそれについて書こうかと思いますが、まずはドイツ・ニーダーザクセン州の選挙結果です。

2013年の各政党の得票率は以下の通りです。

CDUが最大勢力であったにもかかわらず、政権与党は第二・第三会派のSPDと緑の党で形成されていました。連邦議会選挙で大躍進したドイツのための選択肢(AfD)は前回選挙ではまだ投票先として存在していませんでした。左翼政党(Linke)は5%の得票率を得られず、議会入りを果たせませんでした。

今回の選挙での各党の得票率は以下の通りです。

今年あった州議会選挙で負け続け、連邦議会選挙でも史上最低の得票率だったSPDがニーダーザクセン州では19年ぶりに最大勢力に返り咲きました。国レベルでSPDが下野する方針を取ったことがどれほど追い風になったのかどうかは不明ですが、ヴァーレン研究グループのアンケート結果では「州政治が投票先決定においてより重要」と回答した人が61%で、「連邦政治の方が重要」と回答した人(34%)を大きく上回っていました。

逆にCDUは史上最低の得票率となり、これから連邦レベルで連立交渉を始めようとしているメルケル首相はかなり厳しい立場に追い込まれています。もしかするとメルケル退場劇があるかもしれないと各メディアで報じられています。

緑の党は第三会派の地位は維持したとはいえ得票率の喪失の幅はかなり大きく、人事的な変更があるかもしれません。

AfDは州議会入りを果たしたものの、得票率は6.2%にとどまりました。そもそも西側の比較的経済状態の良いニーダーザクセン州ではAfDがそれほどお呼びではないということもあるかもしれませんが、連邦議会選挙後のAfD党首フラウケ・ペトリの突然の離党および新党「青の党」結成などで勢いがそがれた可能性もあります。

左翼政党は得票率は延ばしたもののやはり5%の壁を超えられず、今回も州議会入りは果たせませんでした。

前回比の各党の得票率の動きは以下の通りです。

結局得票率を延ばしたのはSPDとAfDだけですが、その伸びが有権者全体の中でどのくらいの意味を持つのか投票棄権者数と比較してみるとよく分かります。下のグラフで左端の紫色の縦棒が投票棄権者の割合(36.9%)を示しています。つまりSPDに投票した人たちよりも13.5%多いことになります。

今回の投票率は63.1%で、2013年の選挙の時の投票率59.4%よりは改善されていますが、「政治失望派が最大勢力」と言われています。投票しないイコール無関心ではないことは世論調査などで確認されています。

 

第18回ニーダーザクセン州議会の議席配分は以下の通りです。

 

SPDが勝ったとはいえ、これまで連立パートナーだった緑の党が大敗しているので、同じ連立では過半数に足りません。残された連立の可能性は「大きな連立(Große Koalition)」と呼ばれるCDUとの連立か、各党のトレードカラーを取って「信号機連立(Ampelkoalition)」と呼ばれる自由民主党を交えた3党連立となります。

また敗北したとはいえ第2勢力であるCDUがFDPと緑の党の「ジャマイカ連立(Jamaikakoalition)」と呼ばれる3党連立を形成することも理論的には可能です。

ただそこでネックとなるFDPが選挙前からSPDと緑の党と連立することを拒絶しています。このため政権に参加したい緑の党は「FDPが民主主義的責任を果たしていない」などと批判しています。FDPがこれからSPDと緑の党との連立交渉に応じるかどうかは不明ですが、確率的には低そうです。

結果的には連邦レベルではSPDの党の性格をうやむやにするという理由で「大きな連立」のための交渉には応じないとした党方針を州レベルでは覆して「大きな連立」の州政権が誕生する可能性もあります。

ヴァーレン研究グループのアンケート結果では「大きな連立」が可能な連立の中では一番支持されていますが、それでも「いいと思わない」という回答(43%)が「いいと思う」(40%)を上回っているところが難しい状況ですね。

 

選挙の争点として最も重要と見なされていたのは、学校・教育が44%で断トツのトップでした。次点が難民・統合で24%。

 

参照記事:

Bundestagswahl 2017, "Landtags­wahl 2017 in Niedersachsen: Ergebnis, Sitzverteilung, Koalitionen", 最終更新2017年10月16日 、15:20

ZDF heute, "Landtagswahl in Niedersachsen: Liveblog: Reaktionen und Analysen(ニーダーザクセン州議会選挙:ライブブログ、反応および分析)", 16. Oktober 2017

ZDF heute, "Nach der Niedersachsen-Wahl: Es wird eng für die Kanzlerin(ニーダーザクセン州選挙後、首相の立場が危うい)", 16. Oktober 2017

ZDF heute, "Niedersachsen nach der Wahl: Rot-Grün abgewählt - Appell an FDP(選挙後のニーダーザクセン州:赤緑連立は敗北。FDPへのアピール)", 16. Oktober 2017


ドイツ:2017年連邦議会選挙結果

ドイツ・ノルトライン・ヴェストファーレン州議会選挙(2017)

ドイツ:シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州議会選挙(2017)

ドイツ:3州同時選挙。右翼政党「ドイツのための選択肢」大躍進


書評:きのこ著、『発酵マニアの天然工房 エエもん・アカンもん、見分けたるー!』(三五館)

2017年10月16日 | 書評ーその他

『発酵マニアの天然工房 エエもん・アカンもん、見分けたるー!』も昨日友人からついでに渡された本です。麹の漬物を作ってみようと思いつつついついそのまま放置してたので、これを読んで初志貫徹(?)するかと思って早速読んでみました。160ページ弱の小冊子で、量的にもさらっと読める手軽さがありますが、文の大部分が関西弁で書かれていて、目の付け所というか突っ込み所が見事でかなり笑って楽しみながら読める本です。

目次

第1章 体と発酵のビミョーな関係

第2章 麹は自分でつくってしまえ

第3章 天然酵母と乳酸菌のレシピ

第4章 こんなにあるぞ!乳酸菌の活用術

第5章 乳酸菌から環境を考えてみよー

第6章 発酵パワーで放射能をやっつけろ!

 

もちろん中には発言がラジカルすぎるというか、そこまで決めつける根拠はちょっと弱いんじゃないかと思える部分もありますし、いろんな「やってみよー」の中にはドイツではかなり難しいものもあります。

また第5・6章では最初の方のテンポの良さや可笑しさ・面白さが残念ながらかなり失われてしまいます。話の繋がりは分かるんですけど、タイトルから期待される内容からはやはり多少脱線していて、全体の座りが悪くなっていると感じずにはいられません。コラム的に挿入するだけの方が良かったのではないかと思います。

何はともあれ第1章から4章は、発酵品・乳酸菌の効用を原理から理解するには楽しくていい入門書です。

とりあえずお米のとぎ汁を捨てないことから始めてみようかと思います。

この方のブログ http://kinokokumi.blog13.fc2.com/ は多少読みづらい感じがありますが要チェックですね。

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書評:カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳、『わたしを離さないで』(ハヤカワepi文庫)

2017年10月16日 | 書評ー小説:作者ア行

昨日は日本に一時帰国してた友人と会って、頼んだものの他にもいろいろと頂きました。その中にカズオ・イシグロの『Never let me go』の日本語訳『わたしを離さないで』(ハヤカワepi文庫)があり、そもそも原文で読もうと思ってすでに注文してあったことや、ピケティの『21世紀の資本』が読みかけであることなどをさっさと頭の隅に追いやって一気に読んでしまいました。解説・あとがき含めて450ページというのはそれほど長編ではありませんが、読み終わった時は夜中の2時半をゆうに過ぎてました(自宅療養生活バンザイ!(笑))

話の大筋はYouTubeで映画『Never let me go』(2010)を見てたので知ってはいたのですが、翻訳ではありますが原作を読んで改めて映画のちょっとした演出の意味が分かったり、映画では表現されてない部分もとても興味深かったりで、読み出したら止まらなくなりました。

もちろんこれにはイシグロ氏の優れた筆致と物語の構成力によるところが大きいとは思いますが、訳者の日本語力によるところも大きいと思います。自分でも副業で産業翻訳ではありますがそういったものに関わっているもので、「翻訳」という作業が「AをBに訳す」という単純なものではなく、目標言語の読者に読みやすく分かるように様々な工夫を凝らさなければならないものだということをよく理解しているつもりです。つまりこの日本語訳『わたしを離さないで』はイシグロ氏の作品であると同時に土屋氏の作品でもあるわけですね。翻訳小説には読みづらく分かりにくいものも少なくない中で、この作品は優れていると思いました。

さて、日本ではドラマ化もされているらしいので内容をだいたい知っている方も多いのでネタバレをあまり気にせず思ったことを書こうと思います。

この物語はある介護人キャシーの独白で、章が進むにつれて彼女の生まれ育ち生きている世界の全貌が徐々に明らかにされていきます。大まかに1970年代のイギリスでひょっとしたら可能だったかもしれないパラレルワールドといえます。論理的に「想像可能」という意味での可能性です。それを象徴するかのように映画ではお店の看板なども含めて文字が鏡写しになっているのだと思います。何十年前のイギリスに見えるけど、そうじゃないんだよ、という感じです。

キャシーと共に施設ヘールシャムで育ったトミーとルースの濃密な三角関係のラブロマンスに目が行きがちではありますが、淡々としたナレーションで明かされていくのは彼女たちの置かれた状況の異常さです。彼女たちは【提供】という使命を果たすために作られた【提供者】です。それが具体的に意味するところはキャシーの子供のころからつい最近までの回想を通して明らかになっていくので、始めの方は結構謎に満ちています。社会から隔絶され保護されていた子供が見聞きでき理解できたことには自ずと限界がありますので、その認知限界をうまく利用してミステリーっぽい物語進行になっているところが魅力です。

その【提供者】が臓器提供者を意味していることは比較的早い段階に明らかになりますが、施設ヘールシャムの本当の役割や子どもたちの創作活動を熱心に助成する教育方針の本当の意味は、物語のクライマックスとしてパラレルワールドの全容が明らかにされる瞬間に語られます。

このパラレルワールドでは彼女たち【提供者】に救いのようなものはなく、提供の猶予がもらえるかもしれないというかすかな希望は残念ながら木っ端みじんに打ち砕かれます。なぜそうなってしまったのか施設ヘールシャムを支えてきたエミリ先生が「仕方ないのよ」と言わんばかりに外の理屈をかつての教え子たちに教え、「自分はそれでも精一杯のことをあなたたちのためにした」と疲れ顔で語ります。「そのことを感謝しろというのは無理な話」とはエミリ先生の協力者であるマダムと呼ばれる女性も言っていますが、そのシステムの冷たさ・容赦のなさはトム・ゴドウィンの古いSF小説『冷たい方程式』を彷彿とさせるような厳格さを漂わせる一方で、提供者の子供たちのために尽力してきたという慈善活動家でさえ努力して「克服」する必要のあった提供者たちへの感情的わだかまり・気味悪いと思う感情が吐露されることで、提供者たちの特異性を際立たせると同時に慈善を偽善的に見せてしまう後味の悪さを余韻として残しています。

ここで問題となっているのは具体的にはクローン技術と臓器提供の組み合わせですが、世に問われているのはもっと普遍的な倫理の問題です。医療技術・遺伝子工学がどんどん進歩していく中で、信心深い人たちにとっては既に「神の領域」に手を出しているかのように思われている様々な技術の可能性に人類はどのように向き合うべきなのか立ち止まってじっくりと考えるべきだとこの作品は警鐘を鳴らしているようです。また同時に人間とは何か、何をもって人は基本的人権が保証されるべき人足り得るのか、一つの社会が何を保証するのかしないのかといった社会的合意と得体の知れないものに対する感情のわだかまりから来る差別問題の関係も改めて問われているように思いました。

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書評:カズオ・イシグロ著、『The Buried Giant(忘れられた巨人)』(Faber & Faber)