10月15日日曜日はニーダーザクセン州の州議会選挙でした。連邦議会選挙後初の地方選挙ということで、中央政権の連立交渉に参考になる所見が得られるかどうかと注目されていました。
ニーダーザクセン州はVWの本拠地であり、大株主でもあるため、ディーゼル排ガス不正や事件州首相とVWの癒着の有無などで揺れていました。政権はドイツ社会民主党(SPD)と緑の党の連立でした。そういうタイミングで緑の党の議員の一人が党を去り、キリスト教民主同盟(CDU)に移籍したことで連立政権の過半数が崩れたために解散選挙となった次第です。「なにそれ?」と呆れるくらいのドタバタ劇ですが、そういう変なことがドイツでも起こり得るということです。
同日に行われたオーストリアの国民議会選挙と違って、ニーダーザクセン州議会選挙はすでに正式な結果が出ています。オーストリア国民議会選挙の正式結果は木曜日に出るそうですので、その後にこのブログでもそれについて書こうかと思いますが、まずはドイツ・ニーダーザクセン州の選挙結果です。
2013年の各政党の得票率は以下の通りです。
CDUが最大勢力であったにもかかわらず、政権与党は第二・第三会派のSPDと緑の党で形成されていました。連邦議会選挙で大躍進したドイツのための選択肢(AfD)は前回選挙ではまだ投票先として存在していませんでした。左翼政党(Linke)は5%の得票率を得られず、議会入りを果たせませんでした。
今回の選挙での各党の得票率は以下の通りです。
今年あった州議会選挙で負け続け、連邦議会選挙でも史上最低の得票率だったSPDがニーダーザクセン州では19年ぶりに最大勢力に返り咲きました。国レベルでSPDが下野する方針を取ったことがどれほど追い風になったのかどうかは不明ですが、ヴァーレン研究グループのアンケート結果では「州政治が投票先決定においてより重要」と回答した人が61%で、「連邦政治の方が重要」と回答した人(34%)を大きく上回っていました。
逆にCDUは史上最低の得票率となり、これから連邦レベルで連立交渉を始めようとしているメルケル首相はかなり厳しい立場に追い込まれています。もしかするとメルケル退場劇があるかもしれないと各メディアで報じられています。
緑の党は第三会派の地位は維持したとはいえ得票率の喪失の幅はかなり大きく、人事的な変更があるかもしれません。
AfDは州議会入りを果たしたものの、得票率は6.2%にとどまりました。そもそも西側の比較的経済状態の良いニーダーザクセン州ではAfDがそれほどお呼びではないということもあるかもしれませんが、連邦議会選挙後のAfD党首フラウケ・ペトリの突然の離党および新党「青の党」結成などで勢いがそがれた可能性もあります。
左翼政党は得票率は延ばしたもののやはり5%の壁を超えられず、今回も州議会入りは果たせませんでした。
前回比の各党の得票率の動きは以下の通りです。
結局得票率を延ばしたのはSPDとAfDだけですが、その伸びが有権者全体の中でどのくらいの意味を持つのか投票棄権者数と比較してみるとよく分かります。下のグラフで左端の紫色の縦棒が投票棄権者の割合(36.9%)を示しています。つまりSPDに投票した人たちよりも13.5%多いことになります。
今回の投票率は63.1%で、2013年の選挙の時の投票率59.4%よりは改善されていますが、「政治失望派が最大勢力」と言われています。投票しないイコール無関心ではないことは世論調査などで確認されています。
第18回ニーダーザクセン州議会の議席配分は以下の通りです。
SPDが勝ったとはいえ、これまで連立パートナーだった緑の党が大敗しているので、同じ連立では過半数に足りません。残された連立の可能性は「大きな連立(Große Koalition)」と呼ばれるCDUとの連立か、各党のトレードカラーを取って「信号機連立(Ampelkoalition)」と呼ばれる自由民主党を交えた3党連立となります。
また敗北したとはいえ第2勢力であるCDUがFDPと緑の党の「ジャマイカ連立(Jamaikakoalition)」と呼ばれる3党連立を形成することも理論的には可能です。
ただそこでネックとなるFDPが選挙前からSPDと緑の党と連立することを拒絶しています。このため政権に参加したい緑の党は「FDPが民主主義的責任を果たしていない」などと批判しています。FDPがこれからSPDと緑の党との連立交渉に応じるかどうかは不明ですが、確率的には低そうです。
結果的には連邦レベルではSPDの党の性格をうやむやにするという理由で「大きな連立」のための交渉には応じないとした党方針を州レベルでは覆して「大きな連立」の州政権が誕生する可能性もあります。
ヴァーレン研究グループのアンケート結果では「大きな連立」が可能な連立の中では一番支持されていますが、それでも「いいと思わない」という回答(43%)が「いいと思う」(40%)を上回っているところが難しい状況ですね。
選挙の争点として最も重要と見なされていたのは、学校・教育が44%で断トツのトップでした。次点が難民・統合で24%。
参照記事:
Bundestagswahl 2017, "Landtagswahl 2017 in Niedersachsen: Ergebnis, Sitzverteilung, Koalitionen", 最終更新2017年10月16日 、15:20
ZDF heute, "Landtagswahl in Niedersachsen: Liveblog: Reaktionen und Analysen(ニーダーザクセン州議会選挙:ライブブログ、反応および分析)", 16. Oktober 2017
ZDF heute, "Nach der Niedersachsen-Wahl: Es wird eng für die Kanzlerin(ニーダーザクセン州選挙後、首相の立場が危うい)", 16. Oktober 2017
ZDF heute, "Niedersachsen nach der Wahl: Rot-Grün abgewählt - Appell an FDP(選挙後のニーダーザクセン州:赤緑連立は敗北。FDPへのアピール)", 16. Oktober 2017