木内昇の『新選組裏表録(うらうえろく) 地虫鳴く』(2010年発行)は、新撰組をちょっと違うアングルから描いた物語です。物語の中心となっているのは名もない新選組隊士・安倍十郎で、伊東甲子太郎と共に新選組を抜けて御陵衛士となり、伊東亡き後薩摩に合流したため、新撰組と接点は多いものの、途中からは敵方の視点が多くなっています。伊東、その実弟の三木三郎、そして篠原泰之進の活躍(暗躍)が多く語られています。
また学者肌の新選組隊士・尾形俊太郎やその下で活躍した監察方の山崎丞にも多くスポットがあてられています。
新選組の方に肩入れしてしまうと、組を割って出て、挙句近藤暗殺を企んだ伊東一派は悪者に見えてしまいますが、立場を変えて見てみると、まあ当然ですが、一概に善悪で分けられないものばかりということが分かります。
目まぐるしく情勢が変わっていく中で、何を目指して、何を為すか、情報が錯綜する中で考えて決断していくのはさぞかし難しいことだったろうと思います。『新撰組 幕末の青嵐』同様登場人物たちは色々と思い悩んでますが、クローズアップされている人数は少なく、出来事を客観的に(誰の視点でもなく)描写する部分が多くなっています。
小説としてどうか、というと可もなく不可もなくという感じがします。構成は『新撰組 幕末の青嵐』の方が変わってて面白かったと思います。