この『『陰陽師』のすべて』には本当にありとあらゆる夢枕獏の『陰陽師』に関わる対談やインタビューや座談会やエッセイなどが集められており、改めて30年間(2016年当時)継続したシリーズの影響力が実感できる1冊です。マンガも映画も見てないので、この本を読むまでその広がりを実感することはなかったのですが。
私が読み続けているもう一つの陰陽師シリーズ、結城光流の『少年陰陽師』も夢枕獏の『陰陽師』の映画化の後にブームに乗って出た話だったと知って、ちょっと驚いたり。結城光流のインタビューも掲載されています。『少年陰陽師』を書くにあたって、夢枕獏の『陰陽師』のイメージに引きずられないように原作を読むことをしなかった、という告白になんか納得してしまいました。夢枕獏は壮年期の安倍晴明を描いているのに対して、結城光流は晴明の孫・昌弘(架空の人物)を主人公にして、晴明は昌弘にとって「くそじじい」であり、すでに「妖のくくり」に入っていると妖どもに思われているような人物として描いています。年齢の違いがあるせいか、両者のイメージに得に矛盾は感じられません。強いて言えば『少年陰陽師』における安倍晴明には家族臭が強いということでしょうか。夢枕獏が安倍晴明の私生活をわざと排して、生活臭を漂わせないようにしている(酒とつまみ以外に食事していない、奥さんや家族が登場しない)のと対照的です。
『『陰陽師』のすべて』には、刊行済み作品の総解説もあって、また壮観です。
陰陽師・安倍晴明などの怪奇譚の文学的源泉は今昔物語集にあるらしいですが、そうすると安倍晴明伝説は日本版アーサー王伝説のようなものと言えるかもしれませんね。長く語り継がれているばかりではなく、題材として様々に咀嚼され、解釈されて、文学ばかりでなく映画や漫画、果てはゲームにまで利用されているところが共通しています。