徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:松岡圭祐著、『マジシャン 最終版』&『イリュージョン 最終版』(角川文庫)

2019年09月15日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行
松岡圭祐は文庫化された作品も改訂する作家で、この『マジシャン』『イリュージョン』の連作も2002年の単行本発行、2003年文庫化、2008年再文庫化「完全版」を経た「最終版」とのことです。たまたま合本版でセールになっていたので買い置きしておいたのをスペインでのバカンス中に読み終えました。
『マジシャン 最終版』では、「金が倍になる」という奇妙な噂の事件性を疑う舛城刑事が、両親を失い里親は詐欺事件で逮捕されたために施設で育ったプロマジシャンを目指す里見沙希(15)の協力を得て詐欺師のトリックを暴いて事件を解決するというマジック関連の探偵ものですが、同時に里見沙希の成長物語でもあり、舛城刑事の学びの物語でもあります。マジックの専門的な考察の他、里見沙希の生い立ちや孤独感が掘り下げられており、ただの探偵ものには終わらない感動的な作品となっています。
続編である『イリュージョン 最終版』の時間軸は『マジシャン』の1年後になっており、両親に絶望した少年・椎橋彬が、趣味のマジックの知識を使い万引きGメンとして脚光を浴びるようになる一方、自らもマジックを駆使し、万引きGメンとして得られた信頼を悪用しながら万引きをし、ついに舛城刑事に追われることになりますが、証拠が不十分なために逮捕もままならずに逃走に成功します。舛城刑事は惟橋のトリックを見破るために里見沙希に協力を要請します。彼女は最初は協力を拒否したものの心境の変化から結局協力することになります。
椎橋彬の生い立ちから家出して年を偽り警備員の仕事に就き、万引きGメンとして脚光を浴びるまでの経緯や彼の心情、社会の理不尽さに対する怒りや親の愛情に対する飢え、マジシャンとしての驕りなどが深く掘り下げられています。
舛城刑事と里見沙希は椎橋彬は彼の犯罪を暴き、彼を追い詰めはしますが、同時に彼に対する深い理解を示し、彼の心からの反省を引き出すところが魅力的です。
 

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2019年09月15日 | 書評ー小説:作者カ行

『帝王死す』は最初はそれとは分かりませんが、実はライツヴィルシリーズの第5弾です。スペインへバカンスに行く飛行機の中で読んだため、読み終わってから2週間がすでに経ってしまい、その後に他の本を4冊も読んでしまったこともあり、やや印象が薄れてしまっているのですが、これ以上忘れないうちに書評を書いておきます。

ある島を買い取り、私設の陸海空軍を有するベンディゴ帝国に君臨する軍需工業界の怪物キング・ベンディゴの弟だというエーベル・ベンディゴにキングのもとに舞いこんだ謎の脅迫状の調査を求められたクイーン親子は、 自宅から拉致同然にベンディゴ島へ連れ去られます。クィーン父の方は政府要人から島の様子を探るためにエーベル・ベンディゴの要請に従うように命じられ、しぶしぶエラリイに同行します。

島についてからは様々な制約のため調査が後手に回ってしまいますが、脅迫状の送り主は比較的早い段階でキングの弟であるジュダだと判明しますが、動機も定かでなく、殺人予告がキングその他の知るところになっても実行されてしまいます。殺人は未遂に終わりましたが、犯行は完全な密室で、しかもジュダはエラリイの目の前で別室の天井を予告時間に弾の入っていない銃を撃ったに過ぎなかっただけだったのでいかにしてキングが銃弾に倒れたのかという謎がエラリイを悩ませることになります。この謎解きの一環としてベンディゴ兄弟がライツヴィル出身であることが分かり、兄弟の背後関係を探るためにエラリイはライツヴィルへ調査に出かけることになります。
 
完全密室とはいえ、キングは妻のカーラと一緒だったため、カーラがジュダと共犯で、彼女がキングを撃った後に銃をなんらかの形で隠して気絶したことは容易に想像がつきますが、共犯となった理由や銃が徹底的な捜査の隙をどのように抜けたのかということが最後まで謎として残ります。
話の展開としては不可能な密室トリックを追っているので、やはりカーラは共犯ではなくなんらかの複雑なトリックがあった可能性も最後まで捨てられない感じなので謎解きの楽しみは維持されます。解答がやはり一番簡単な共犯関係であったことがかえって好感を持てました。あんまり凝り過ぎた理解できないトリックだと非現実的な印象が否めませんしね。
ライツヴィルシリーズ特有のセンチメンタルな部分も引き継がれて、三兄弟の複雑な関係が掘り下げられていくという推理小説的でない部分も魅力があります。

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