徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:Manja Präkels著、Als ich mit Hitler Schnapskirschen aß(私がヒトラーとシュナップス用チェリーを食べた時)

2022年02月16日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

マンヤ・プレーケルスの「Als ich mit Hitler Schnapskirschen aß(私がヒトラーとシュナップス用チェリーを食べた時)」は2017年に Verbrecher Verlagから出版され、2018年度 Jugendliteraturpreis青少年文学賞や Anna-Seghers-Preis アンナ・セーガース賞、Kranichsteiner Jugendliteraturpreis クラーニヒシュタイナー青少年文学賞受賞作品です。

物語はドイツ民主主義共和国だった1980年代にブランデンブルク州のHavelstadt ハーヴェルシュタットで子ども時代を過ごした Mimi Schulz ミミ・シュルツによって語られます。

「民主主義共和国」とは名ばかりの一党独裁国家だった東ドイツ。ブランデンブルクの田舎町で育った少女の視点で描かれる社会の移り変わりに関するリアリティは、貴重な歴史ドキュメンタリーと言える一方で、寄る辺もなく翻弄されて絶望感の漂う一人の女性の私小説でもあります。

タイトルにある「ヒトラー」とはもちろんかの有名なアドルフ・ヒトラーのことではなく、東西ドイツ統一後にネオナチのリーダーとしてミミの幼馴染であるオリバーが名乗るようになった(あるいは呼ばれるようになった)通称です。
ミミとオリバーが幼い頃にハーヴェル川で一緒に釣りをしたその思い出が美しければ美しいほど、後の分かたれてしまった二人の人生の道のりが物悲しく感じられます。

読んで楽しくなるようなストーリーではありませんが、東独、壁の崩壊、「die Wende」と呼ばれる通りに何もかも「ひっくり返った」その具体的な様子、ネオナチと呼ばれるストリートキッズ・ストリートファイターの台頭などミミを通して追体験できます。

プレーケルスのドイツ語の表現は独特で味わい深いです。酒・セックス・ドラッグにかかわる表現は時に赤裸々で、ブランデンブルク方言と若者言葉・スラングが入り混じって本物らしさを醸し出しています。
その分外国人には読みにくいという難点もあるのですが、ネットで調べても分からないような表現はないので、調べる手間を惜しまなければ十分に理解でき、味わえます。

未邦訳作品ですが、Amazon Japanで購入できます。