『奏者水滸伝 全7巻合本版』は『阿羅漢集結』『小さな逃亡者』『古丹、山へ行く』『白の暗殺教団』『四人、海を渡る』『追跡者の標的』『北の最終決戦』の7作品をひとまとめにした電子書籍です。さすがに一日一晩で読破することは無理ですが、4日間で読み終えました。
第1巻である『阿羅漢集結』は聖者と呼ばれた偉大なジャズマンがニューヨークで予言を残して死ぬところから始まり、「何かが動く」予感をさらに盛り上げるように木喰を名乗る謎の旅の僧侶が「羅漢」と思われるジャズ奏者を北海道・京都・沖縄で3人見つけ出して東京に集結させ、そこにふらふらと惹かれるようにもう1人東京出身の伝説化していたアルトサックス奏者が登場し、4人集結してジャズバンドを結成するところまでの物語です。
北海道の野生児ピアニスト古丹神人、沖縄の天才的武闘家にしてドラマーの比嘉隆晶、京都の茶道の時期家元にしてベーシストの遠田宗春、音大で音楽理論を教えるアルトサックス奏者・猿沢秀彦の四人はそれぞれ超人的な能力を持ち、それゆえに余人には理解されない孤独な悩みを抱えています。
だからこそ、そうした彼らの特殊能力を見抜き、あまつさえ仲間がいることを示唆する老僧の誘いに乗ったわけですね。
こうして集まったジャズマンの4人はジャズ界に一大旋風を巻き起こすわけなのですが、2巻以降は誘拐事件・殺人事件・テロなど様々な事件に巻き込まれ、そのたびにそれぞれの超能力を活かして事件解決に至ります。
事件に巻き込まれてしまうのも「羅漢」の磁場のようなもののせいらしいですが、「人にあって人にあらず、仏にあって仏にあらず。故に多く悩み、その悩む姿で人に教えをもたらす」とか「羅漢は仏法(宇宙意志のようなもの)を聞く」という禅問答のような説明以上の追及は作中ではありませんし、本人たちも別に信じているわけでもないので、神秘性やファンタジーの色は薄く、むしろ刑事を主人公にしていないだけで、かなり警察小説っぽい色合いが濃いです。
1980・90年代の作品なので時代を感じさせる部分もありますが、それはそれで味わい深いです。
なんとなく腑に落ちない点は、第1巻で4人の終結に多少なりとも一役買っていた音楽ジャーナリスト天野がその後まったく登場しないことでしょうか。7巻一気読みするとその点が奇妙に感じます。
ただ、読み始めると先が気になって止められなくなるエンタメ性の高い筆致は変わらないので、ストーリーコンセプトの細かな変更の痕跡には目をつぶれるかと思います。
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