徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:三上延著、『ビブリア古書堂の事件手帖II ~扉子と空白の時~』 (メディアワークス文庫)

2022年07月11日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

栞子と大輔の娘・扉子が活躍するシリーズ第2弾『ビブリア古書堂の事件手帖II ~扉子と空白の時~』は、ますます母の栞子にそっくりになって来る扉子が急に祖母に呼び出され、父・大輔の付けていた事件手帖のうち、2012年と2021年の横溝正史の『雪割草』に関わるものを持って来て欲しいと頼まれ、それを持って馴染みのブックカフェに行くところから始まります。
本編の第一話~第三話はその事件手帖に書かれている内容で、扉子が祖母・篠川千恵子を待ちつつそれを読んでいる設定です。

プロローグ
第一話 横溝正史『雪割草』I
第二話 横溝正史『獄門島』
第三話 横溝正史『雪割草』II
エピローグ

第一話の時は2012年。まるで横溝正史の金田一耕助シリーズに出てきそうな元華族の上島家で、横溝正史の幻の作品と言われる『雪割草』が盗まれたと身内の中で騒ぎになり、縁故のあった書店を通じてビブリア古書堂に事件解決の相談が持ち込まれます。
ここで、盗まれた本自体は戻ってきますが、そこに挟まれていたという付録は行方不明のまま事件は終了します。
それが第三話への前振りになっており、2部構成で以前の事件を解決するという横溝正史の『病院坂の首縊りの家』に似せています。

間に挟まれた第二話の『獄門島』は扉子が小学生の時の話で、読書感想文を書くための本にどういうわけか『獄門島』を選んで先生を心配させ、買い置きしていた古本を取りに行くために父・大輔と出かけて行ったら、目的の本がなくなっていたという事件を描きます。
これは、第三話の事件解決のための1つの鍵の役割を果たしています。
『獄門島』と『雪割草』の関係は、最後の最後に明かされますので、ここでは言及を控えさせていただきますが、とにかくなくなった「付録」は正当な持ち主の元に戻ってきます。

そして、エピローグで、千恵子の予備他紙の目的が実は扉子にその事件手帖を読ませることだったことが明かされます。
そこで手帖に書いていない真実に気付いた扉子が、千恵子に質問をしますが、それに応えないまま去っていく彼女は相変わらず謎めいた恐ろしげな人でした。




書評:宮田登著、『民俗学』(講談社学術文庫)

2022年07月11日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

宮田登著、『民俗学』(2019)は、民俗学とは何か、日本における民俗学の成り立ちから現在に至るまでの研究の発展や変遷、民俗学的に重要な「常民(性)」「ハレ」「ケ」「ケガレ」などの概念の説明など、非常に示唆に富んだ入門書です。

装丁や構成が現代的な意味で分かりやすくなっているわけではないので、その辺りは「学術文庫」であるところを考慮して大目に見る必要があるかと思います。
つまり、手っ取り早く読める本ではありません。

目次
まえがき
1 民俗学の成立と発達
2 日本民俗学の先達たち
3 常民と常民性
4 ハレとケとゲガレ
5 ムラとイエ
6 稲作と畑作
7 山民と海民
8 女性と子供
9 老人の文化
10 交際と贈答
11 盆と正月
12 カミとヒト
13 妖怪と幽霊
14 仏教と民俗
15 都市の民俗

先日一気読みした『準教授・高槻彰良の推察』シリーズの高槻淳教授の専門分野は、上の民俗学の分野の13と15にあたるのだな、と一人納得しながら読みました。

日本の民俗学がもはや農村、特に稲作文化ばかりを追わず、広く人々の営みと大小の「伝承」「伝統」に目を向けるようになったのはいいことだと思います。
やはり古いもの(失われつつあるもの)ばかりに囚われるのではなく、いかなる人の集団にも<民俗>が生まれることに着目するのは、現実に即しています。

私は古いものも好きですが、なぜかどこからともなく生まれて語り継がれる都市伝説の類も好きです。
そういったものが類型化できるのであれば実に興味深いと思います。