『ビブリア古書堂の事件手帖』の第1巻が発行されてから10年を記念して書かれた本書『扉子と不思議な客人たち』は同シリーズの10冊目となるそうです。
この巻は、探偵小説3大奇作の1つと言われる夢野久作の『ダグラ・マグラ』をめぐる物語です。
古書店・虚貝堂の跡取り息子・杉尾泰明の死により遺された約千冊の蔵書。これは、法的には高校生の息子・樋口恭一郎が相続することになっているが、虚貝堂店主・杉尾正臣がこれを全て売り払うという。恭一郎の母・佳穂は、これを阻止しようとビブリア古書堂に相談し、栞子と大輔は虚貝堂店主も出店する即売会場で説得を試みるが、即売会ではいくつものトラブルが待ち受けていた。
曲者の栞子の母・千恵子が陰で糸を引いている気配もあります。
目次
- プロローグ・五日前
- 初日・映画パンフレット『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』
- 間章一・五日前
- 二日前・樋口一葉『通俗書簡文』
- 間章二・半年前
- 最終日・夢野久作『ドグラ・マグラ』
- エピローグ・一ヶ月後
全編を通じて次の謎が解明されていきます。
- 虚貝堂店主・杉尾正臣が遺産の古書を売り払おうとしているのはなぜなのか。
- 樋口佳穂が本を読まない息子・恭一郎に古書を相続させようとするのはなぜなのか。
- 亡くなった杉尾泰明が一時期失踪していたのはなぜなのか。
- 杉尾泰明と樋口佳穂はなぜ離婚したのか。二人の間に何があったのか。
- 杉尾泰明はなぜ死ぬ前にみんなに「どれでも好きな本を一冊持って行っていい」と言ったのか。
- 篠川千恵子はこれらにどのように関わり、何を企んでいるのか。
この巻では、高校二年生になった扉子が海外出張中の母・栞子の代わりに事件の解明に貢献します。まだ思い込みが激しく、人の話を聞いてなかったりして勘違いすることもあるものの、洞察力はかなり鋭く、外見的にもしぐさも母親そっくりに育ってきているところが面白いです。
そして、今回話題の古書の相続人・恭一郎は本を読む習慣がこれまでなかったものの、扉子の話を聞いて本に興味を持ち出します。この二人の会話は、かつての栞子と大輔の会話にそっくりで、二人の未来を予感させます。
また、エピローグでそろそろ引退を控えた千恵子の企てが大まかに明かされているのですが、そこで読み物としての『ビブリア古書堂の事件手帖』に言及されており、『ドグラ・マグラ』の中で『ドグラ・マグラ』に言及されているのを真似ているのがなかなか面白いです。
ある古書を探し求めて10年も失踪していた篠川千恵子の怖いキャラは引退間近でも健在で、このシリーズの重要なスパイスとなっています。
次巻がクライマックスになりそうな感じがしますが、ひょっとしたらまだ終わらないのかもしれません。