『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論』シリーズもついに8巻目。主人公の杉浦李奈も本屋大賞にノミネートされ、サイン会を催してもらえる立場になり、そろそろ「売れない新人作家」から脱却しつつある流れに乗っているようですが、彼女のもう一つの顔である文芸界の問題解決人としても、警察の覚えもめでたく、この巻でもまた呼び出しを受けることになります。(まあ、そうでないと話が進まないのですが)
まずは、文芸界にセンセーショナルな事件が起こります。太宰治の5通目の遺書が75年ぶりに発見されたというのです。太宰本人の筆である可能性が高いことから筆跡鑑定が進められていたのですが、真贋判定の直前に仕事部屋で起きたボヤにより鑑定人が不審な死を遂げてしまいます。鑑定書の完成を記者5人が待ち構えていた邸宅内での出来事だった。遺書と見られる文書の内容が、太宰治の未完の作『グッド・バイ』に沿ったものであったらしいという話を鑑定人本人が複数の人間にしていたにもかかわらず、そのものを見せてもらった人はなく、内容公開は鑑定書が完成してからと鑑定者本人が勿体付けていたため、否が応でも鑑定書の完成に注目が集まっていた中での不審な死。防音措置が施された密室でのボヤで、なぜか逃げようともせずに仕事机に突っ伏して死んでいた。そして、太宰治の遺書と目されていた文書は跡形もなく消えていた。
一方、同時期に本屋大賞にノミネートされた純文学作家の柊日和麗(ひいらぎひかり)に李奈は仄かな好意を抱いており、ある時からラインで送ったメッセージに既読が付かなくなったことを心配していました。筆跡鑑定家の事件に協力するために、太宰治について調べだした頃、柊の担当編集者から柊が行方不明になっていることを知り、彼の行方を追うために協力することになります。
太宰治の遺書らしきもの、筆跡鑑定家の死、純文学作家の失踪。これらは全くバラバラに起こったことなのか、それともなんらかの関連性があるのか。
終盤は、関係者全員を集めて、アガサクリスティーのポアロ探偵さながらに謎解きを披露する李奈。もちろん、その場面でポアロのことが言及されています。有名な作品からの引用もこのシリーズの面白さです。
奥手の李奈に仄かな恋の予感があったのに、その相手が失踪するという悲劇。それを糧に人として、女性として、作家としてさらに成長する。これもまたこのシリーズの魅力です。
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