『賊軍の昭和史』は明治維新150周年とは全く関係なく、2015年の発行なのですが、官軍(薩長閥)・賊軍という幕末・明治期に出来上がった派閥を昭和の陸海軍がどのように引きずっているかをテーマにし、薩長史観の見直しを目的としているので、読んでみました。半藤一利と保阪正康両氏の対談を書籍化したものですので、かっちりとした全体の構成はないのですが、対談なので読みやすいというのはあるかも知れません。
目次
プロローグ 官軍・賊軍史観が教えてくれること 半藤一利
序章 官軍vs賊軍 ー 浮かび上がる「もう一つの昭和史」
第一章 鈴木貫太郎 ー 薩長の始めた戦争を終わらせた賊軍の首相
第二章 東条英機 ー 混乱する賊軍エリートたちの昭和陸軍
第三章 石原莞爾 ー 官軍の弊害を解消できなかった賊軍の天才
第四章 米内光政、山本五十六、井上成美 ー 無力というほかない賊軍の三羽烏
第五章 今村均 ー 贖罪の余生を送った稀有な軍人
エピローグ 官軍的体質と賊軍的体質 保阪正康
ここでの昭和の軍隊や政権における官軍・賊軍の区別は、出身地によるものばかりではなく、精神構造や手法の違いも指しています。すなわち、官軍的手法は、冷静に分析するより行動への渇望を土台にしており、自滅するまで突っ走って戦う傾向があるということです。それに対して賊軍的精神構造とは、現実を受け入れて再起を図るといったものを指しています。
だから、官軍が吉田松陰の構想のままアジアへ進出し、また大局的な戦略もなく、太平洋戦争の先端を開いて日本を滅亡に導き、どうしようもなくなったところで賊軍の首相・鈴木貫太郎が戦争を収束させるという構図が成り立つわけです。
「海軍は善玉」のようなイメージが単なるイメージにしかすぎないことも指摘されています。海軍は人数が陸軍に比べて少なかったせいもあり、官軍・賊軍の派閥がはっきりと残っており、賊軍出身の軍人たちはなにかと差別されていたそうです。そして太平洋戦争反対の姿勢を示した「賊軍」の軍人たちは人事的に中央から遠ざけられてしまい、海軍は陸軍と同様に戦争へまっしぐらに向かっていったというのが史実のようですね。