ガイ・ドイチャーの『Through the Language Glass』並びにStefanie Schramm と Claudia Wüstenhagen の『Das Alphabet des Denkens - Wie Sprache unsere Gedanken und Gefühle prägt(思考のアルファベット 言語はどのように思考と感情に影響するのか)』 を読んだ後に今井むつみの『ことばと思考』を読むと、色彩語に関する実験や前後左右などの相対的位置関係に関する言語の違い、数字の概念など、重複する部分が多くなります。
しかしながら、今井むつみはとくに第一言語習得の分野で世界的な第一人者であることから、子どものことばの習得(第四章)から見えて来る言葉と思考の関係についても言及されており、そこから言語の普遍性や共通性と個別言語の相違性について考察されているのが興味深い。
目次
序章 ことばから見る世界 ー言語と思考
第一章 言語は世界を切り分ける ーその多様性
色の名前
モノの名前
人の動きを表す
モノを移動する
モノの場所を言う
ぴったりフィットか、ゆるゆるか
数の名前のつけ方
第二章 言語が異なれば、認識も異なるか
言語決定論、あるいはウォーフ仮説
名前の区別がなくても色は区別できるか
モノと物質
助数詞とモノの認識
文法のジェンダーと動物の性
右・左を使うと世界が逆転する
時間の認識
ウォーフ仮説は正しいか
第三章 言語の普遍性を探る
言語の普遍性
モノの名前のつけ方の普遍性
色の名前のつけ方の普遍性
動作の名前のつけ方の普遍性
普遍性と多様性、どちらが大きいか
第四章 子どもの思考はどう発達するか ーことばを学ぶ中で
言語がつくるカテゴリー
モノの名前を覚えると何が変わるのか
数の認識
ことばはもの同士の関係の見方を変える
言語が人の認識にもたらすもの
第五章 ことばは認識にどう影響するか
言語情報は記憶を変える
言語が出来事の見方を変える
色の認識とことば
言語を介さない認識は可能か
終章 言語と思考 ーその関わり方の解明へ
結局、異なる言語の話者はわかりあえるのか
認識の違いを理解することの大事さ
あとがき
結論から言えば、言語は、子どもに、自分以外の視点から世界を眺めることを教え、世界を様々に異なる観点からまとめられることに気付かせ、様々な切り口、様々な語り方で自分の経験を語ることを可能にし、さらに、経験を複数の様々な視点、観点から反芻することを可能にする、すなわち、人以外の動物が持ちえない柔軟な思考を可能にするということです。
言語なしの思考はあり得ないわけではありませんが、ある一定上の複雑さは持ち得ないとは言えます。
一方、言語は認識や記憶を多少なりともゆがめてしまうことも実験から明らかになっています。モノなどの〈名前〉に引きずられて、何かを思い出す際に、それ自体ではなく、その〈名前〉の表す典型の方に歪む傾向があるとのことで、人の認識や思考がなかなか一筋縄ではいかないことを示しています。