本書は言語学応用論・臨床言語学の視座から日本人にとっての外国語学習のあり方を論じるものです。「外国語学習」とは銘打っているものの、著者の視野にあるのは、近年低年齢化の進んでいる英語教育です。
目次
まえがき
序章 外国語学習への不思議
第1章 ことばの萌芽
第2章 記憶されていく外国語
第3章 記憶された外国語の活性化
第4章 記憶されている外国語の安定化と保持
第5章 記憶に沈殿していく外国語と消滅する外国語
終章 日本の外国語学習のすがた
推奨文献
あとがき
索引
第1章と2章で母語の習得と外国語の習得の仕組みや記憶のされ方について論じられており、第3章から終章までは、言語習得や記憶の仕組みを踏まえた上で、外国語の運用能力を身につけられるような教育とはどのようなものか、現在の日本の教育の現状を振り返りつつ論じられています。
外国語教育に関わる者なら読むべき良書の一冊と言えるでしょう。
私にとって特に興味深かったのは、小学校低学年までの英語教育に関する指摘です。ここで英語教育を行う教師が英語ネイティブであり、教育者としての素養を持ち合わせているのであれば、子どもにとって有益であると言えるのに対して、教育者が日本人あるいは英語を母語としない外国人であったり、教育者として素人である場合は、間違った知識が「潜在記憶」に暗黙知として蓄積されてしまい、後で修正するのが困難になってしまう問題点があるという。
子どもの認知的成長に即した教授法でないと認知的な負担が大きくなり、害にしかならないとの指摘は、なんとなく「子どものうちから英語をやっておけばうまくなる」といった安易なイメージとは相対立するもので、ぜひとも子どもを持つ親たち並びに教育委員会のお歴々に知っておいてほしい知見です。
逆に、成人後に集中的に外国語を学び、それを活かして国際的に活躍する人間はいくらでもいるので、学習を開始する年齢は問題の本質ではないという指摘も声を大にして強調すべき知見でしょう。
少々専門的でお堅い本なので、一般の方にお勧めできるような本ではありませんが、外国語教育に携わる方であればぜひ読むべきだと思います。