徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:川端康成著、『雪国』(角川文庫)

2023年08月05日 | 書評―古典

「国境の長いトンネルを抜けると雪国だった」という出だしで有名な川端康成の『雪国』。正直、タイトルのこの出だししか知らなかったので、期間限定セールになっていたのを機に新仮名遣いの本書を購入し、読んでみました。

情景描写や人物描写に力があり、描かれた状況がくっきりと立ち上がってくるような印象を受けるのはさすが著名な文学作品と感心するあまりですが、ストーリーはというと、ちょっとしたことで知り合った芸者に会いに新潟県の温泉街まで東京から通い、長逗留する無為徒食の男・島村の目線から描かれた芸者・駒子の自分に対する思いや、それにどうとも答えられない自身の情けなさや、雪国へ向かう列車の中で目を惹いた若い娘・葉子に対する曖昧な情など、あまり面白くない、というのが正直な感想です。
島村に対する感想は、「なんだこのふらふらしたどうしようもない男は⁉」です。カッコつけて、斜に構え、親の遺産を食いつぶしながら、少しばかりの書き物をして、自分からは何も積極的に取り組もうともしない、約束も守らないいい加減な男が物珍しい雪国の情景とそれにまつわる女の話を語っただけ。主人公に全く共感できないのは、私が女だからなのでしょうか?

随所に散りばめられた日本語表現だけはすばらしい作品。