『帝王死す』は最初はそれとは分かりませんが、実はライツヴィルシリーズの第5弾です。スペインへバカンスに行く飛行機の中で読んだため、読み終わってから2週間がすでに経ってしまい、その後に他の本を4冊も読んでしまったこともあり、やや印象が薄れてしまっているのですが、これ以上忘れないうちに書評を書いておきます。
ある島を買い取り、私設の陸海空軍を有するベンディゴ帝国に君臨する軍需工業界の怪物キング・ベンディゴの弟だというエーベル・ベンディゴにキングのもとに舞いこんだ謎の脅迫状の調査を求められたクイーン親子は、 自宅から拉致同然にベンディゴ島へ連れ去られます。クィーン父の方は政府要人から島の様子を探るためにエーベル・ベンディゴの要請に従うように命じられ、しぶしぶエラリイに同行します。
島についてからは様々な制約のため調査が後手に回ってしまいますが、脅迫状の送り主は比較的早い段階でキングの弟であるジュダだと判明しますが、動機も定かでなく、殺人予告がキングその他の知るところになっても実行されてしまいます。殺人は未遂に終わりましたが、犯行は完全な密室で、しかもジュダはエラリイの目の前で別室の天井を予告時間に弾の入っていない銃を撃ったに過ぎなかっただけだったのでいかにしてキングが銃弾に倒れたのかという謎がエラリイを悩ませることになります。この謎解きの一環としてベンディゴ兄弟がライツヴィル出身であることが分かり、兄弟の背後関係を探るためにエラリイはライツヴィルへ調査に出かけることになります。
完全密室とはいえ、キングは妻のカーラと一緒だったため、カーラがジュダと共犯で、彼女がキングを撃った後に銃をなんらかの形で隠して気絶したことは容易に想像がつきますが、共犯となった理由や銃が徹底的な捜査の隙をどのように抜けたのかということが最後まで謎として残ります。
話の展開としては不可能な密室トリックを追っているので、やはりカーラは共犯ではなくなんらかの複雑なトリックがあった可能性も最後まで捨てられない感じなので謎解きの楽しみは維持されます。解答がやはり一番簡単な共犯関係であったことがかえって好感を持てました。あんまり凝り過ぎた理解できないトリックだと非現実的な印象が否めませんしね。
ライツヴィルシリーズ特有のセンチメンタルな部分も引き継がれて、三兄弟の複雑な関係が掘り下げられていくという推理小説的でない部分も魅力があります。