新潮文庫
2013年12月 発行
解説・中村文則
282頁
短篇集です
タイトルだけでも笑えます
「楠木正成」
現代と中世が混ざり合う摩訶不思議世界
タイムトラベルが可能だったとしても戦乱の時代は避けたいです
「ゴランノスポン」
自分の真の姿を見ようとせず、素晴らしい、感謝、いい感じ、最高、と思い込むことで自己保身に必死の主人公
意味不明なタイトルですが、中村さんの解説を読んで納得
「この番組はご覧のスポンサーの」というテレビのあれと推測される。テレビはいわば現実逃避で、あの言葉は現実に引き戻される瞬間である。言葉が途中の理由は、主人公が現実に戻るのを拒否するためチャンネルを変えるようなことをしているから。もしくは、現実に引き戻される「瞬間」を効果的に表すためと思われる。
「一般の魔力」
分譲住宅に住むサラリーマン一家
自分たちが心地よければOK
邪魔する者(物)は排除する
ただし、誰も見ていないところで
これは怖かった
現実に身近にいそうな人間たち
気付いていないだけで自分にもそういうところはあるかもしれません
最後には、この一家に因果応報とも思えるような事件が降りかかるようですが断定はされていません
「二倍」
先輩に誘われて入社した得体のしれない会社
実態のない「夢」を売る仕事だが驚くほどの報酬が支払われ、通常の社会観念から外れていく主人公
仮想社会に接する機会が増えてきたこの頃
あり得ない話ではありません
「尻の泉」
身体から噴き出る泉が人を清めるという噂が世を席巻していた時代
主人公の場合は、それが尻の穴から噴出していたので清浄なものとは考えられず、ひた隠しに隠し続けて孤独な生活を送っていたのだが、一人の男性が接近してくる
唯一の友を得ることができたと喜ぶ主人公だったが、男性の意図は別のところにあった
「末摘花」
源氏物語・末摘花の現代語訳、それも光源氏の一人称
平安貴族の日常はこんなものだったのかも?
「先生との旅」
ちょっとした行き違いで有名な先生のハレの場で講演をする羽目に陥った青年
かの先生の著書を読んだこともないし、講演が出来るほどの力量も持ち合わせていない
おまけに待ち合わせの駅で全く別人の『先生』とタクシーに乗ってしまい…
馬鹿げた設定ですが、現実にあってもおかしくない物語
その中に垣間見える真理にゾッとしました
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