中央公論新社
2019年6月 初版発行
302頁
あるルールのもと、古代から未来までの日本を舞台に、ふたつの族が対立する歴史を描いた競作企画、螺旋プロジェクト
作品のうち『古代』
8世紀前半、首(聖武天皇)の時代を描きます
東大寺大仏の開眼供養から4年
仏教政策を推進した帝の宝算は尽きる
道祖王(ふなどおう)を皇太子にとの遺詔が残されるも、その言に疑いを持つ、前左大臣・橘諸兄(たちばなのもろえ)の命を受けた中臣継麻呂と道鏡は密かに亡き先帝の真意を探ることになります
タイトルの月人壮士(つきひとおとこ)とは月を若い男に見立てて言う言葉で、本書では首(おくび)のことを指します
皇統とは盤石なる巌のごとき陸であり、陸は常に、ひたひたと打ち寄せる海に取り囲まれ、荒ぶる波と闘い続けており、本邦においては、いわばその海は藤原氏
本来、天皇家と藤原氏は相容れぬものであったはずが…
天武天皇と持統天皇の直系でありながら藤原氏の女性を母に持った首は非の打ちどころのない統治者ではなく、山の形をした海、日輪の真似をした哀れなる月人壮士なのです
それを強く自覚している首の、何人にも推し量れない孤独が中臣継麻呂と道鏡によって焙り出されます
海族と山族の対立にこのような描き方もあり
ほとんどが会話文で進んでいくので読みやすく、遠い昔に生きていた人々を身近に感じられる物語でした
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