文春文庫
2003年12月 新装版第1刷
2010年12月 第19刷
解説・村上博基
上巻 463頁
下巻 486頁
時は老中・水野忠邦による天保の改革のころ
知行千石の旗本の子弟、神名平四郎
父が年老いてから下働きの女性に産ませた子であることから、現当主の末弟とはいえ幼い頃より冷遇されてきたが剣術の腕だけは誰もが認めるところ
仲間から提案された新しい道場をつくる話にのり、実家を出て裏店に棲みついたものの
仲間の一人が資金を持って夜逃げ
たちまち生活に窮する羽目に陥ってしまった平四郎が思案の挙句に掲げた看板は
『よろずもめごと仲裁つかまつり候』
喧嘩五十文、口論二十文、取りもどし物百文、さがし物二百文、ほかいろいろ
当初は一人の訪問者もなく手持ち無沙汰で途方に暮れかけた平四郎だったが、最初の仕事を上手く片付けてからは徐々に仕事が舞い込むようになる
稼業で関わる町人世界
剣の腕を買われ、兄の依頼で気は進まないが関わらざるを得ない武家世界
連作短編の各物語で市井の人々を描きつつ
それとは別の、兄と鳥居耀蔵の暗闘という一本の太い糸が全編に通されています
息詰る剣劇あり
平四郎の恋話あり
道場を開く話はどうなるのか
上下巻合わせて24話もありますが全く厭きることなく楽しく読ませてもらいました
「女難」
タイトルから想像される通り、平四郎が女難に遭います
ユーモラスな展開が面白く、ちょっと脇道に逸れた話ですが気に入りました
「ねえ、どうするの?」
うしろからおきぬの声が追いかけて来た
「遊びに来てくれる?」
木戸を出ると、平四郎は突然走り出した
-女難だ、これは女難だ
女は嫌いではないが、こう急にまわりに女っ気が多くなっても困る
走りながら平四郎はそう思っている
ラストの数行次第で、物語がグっと締まるか、ボンヤリしてしまうかが決まりますが
藤沢さんのストンと腑に落ちる終わらせ方には毎度感心します
政治の話にあまり興味が無い、というところが可笑しかったです。
この24話で何本映画が撮れるかしら、ってくらいどれも良かったです。