新潮社
2022年8月 発行
345頁
庵原かのんは赴任先の北九州市で少年係調査官として更生の可能性を信じて家庭や学校、友人との問題等で荒んだ少年少女たちの声なき声に今日も耳を傾けます
「自転車泥棒」「野良犬」「沈黙」「かざぐるま」「パパスの祈り」「アスパラガス」「おとうと」
何れも少年少女たちの一生を左右するような重い事件を扱っていますが、ミステリー色は薄く、同僚たちとの会話や飲食、東京に暮らすゴリラ飼育員の彼との遠距離恋愛を織り込むことでゆったりとした味わいに仕上がっています
家裁調査官に求められるのは「人間力」だ、という件があります
生い立ちも性格も背景も異なるありとあらゆる人と接する必要があり、もっとも重要な部分は「傾聴」であり、同時に、相手が話す時の仕草や表情、視線の動きなどから、その人の言外の心の状態なども感じ取るように努めることも重要で、対象者の家を訪ねるのは日頃の生活態度や置かれている環境、普段の表情などを知るためである
かのんが様々な難問を抱える少年少女たちに真正面から向き合い救済しようと真摯に働く姿は、人を信じることの大切さを教えてくれます
読んでいて、気持ちのよい作品でした
続編もあるそうで楽しみです
かのんの仕事内容に既視感があると思い、調べたら伊坂幸太郎「チルドレン」「サブマリン」の陣内が家裁調査官でした
同じ職種を扱っていても作者によって随分違う味わいの作品に仕上がるものですね
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