みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0647「コンタクト」

2019-09-04 19:16:14 | ブログ短編

 それは何の前触(まえぶ)れもなく始まった。とても単純(たんじゅん)な信号(しんごう)が宇宙(うちゅう)から届(とど)いたのだ。規則(きそく)正しく同じ信号を繰(く)り返していた。これは宇宙人からのコンタクトなのか。科学者(かがくしゃ)たちは色めき立った。
 観測(かんそく)を続けると、その発信源(はっしんげん)は火星(かせい)だと分かった。それもだんだん地球(ちきゅう)に近づいて来ている。世界中の望遠鏡(ぼうえんきょう)が火星の方角(ほうがく)に向けられた。だが、誰(だれ)も何も発見(はっけん)できなかった。時間だけが虚(むな)しく過(す)ぎていく。そうこうするうちに、発信源は月の付近(ふきん)まで到達(とうたつ)してぷつりと途切(とぎ)れてしまった。それと同時に、通信機器(つうしんきき)に障害(しょうがい)が起き、すべての制御装置(せいぎょそうち)が停止(ていし)した。これは火星人の悪戯(いたずら)か、それとも何かの警告(けいこく)なのか。世界中の目が月に向けられた。そして、みな一様(いちよう)に驚愕(きょうがく)の声を上げた。――月の表面(ひょうめん)にバッテンがつけられていたのだ。
 同じころ、とある田舎(いなか)の村(むら)に一人の男が現れた。その男は、民家(みんか)の軒先(のきさき)の縁側(えんがわ)で日向(ひなた)ぼっこをしていたお婆(ばあ)さんに近づいて、空(そら)を指(ゆび)さして言った。「あのホシはきっともらい受ける」
 お婆さんは、耳(みみ)が少し遠(とお)かった。だが、男の言ったことが分かったのかニコニコしながら上を指さしてこう答(こた)えた。「ああ、干(ほ)し柿(がき)ね。どうぞ、持って行きなさい」
 軒先にはちょうど食べ頃(ごろ)の干し柿が吊(つる)してあった。男はそれを手に取ると、不思議(ふしぎ)そうに首(くび)をかしげて何やら呟(つぶや)いた。それから男は、お婆さんにぎごちなく微笑(ほほえ)むと、そのままどこへともなく去(さ)って行った。その後、月のバッテンはいつの間にか消(き)えてしまった。
<つぶやき>男はどんなツッコミをしたのでしょうか? 想像(そうぞう)してみると楽しいかもね。
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