みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0653「不詳怪盗」

2019-09-10 18:43:34 | ブログ短編

「あたし、彼のことは何も知(し)らないわ。泥棒(どろぼう)さんだったなんて…」
「あなたは、見ず知らずの男を部屋(へや)へ入れたんですか? なぜそんなことを」
「だって…。彼、とっても寂(さび)しそうだったから…。あたしと同じ気がしたの。だから…」
 刑事(けいじ)は呆(あき)れた顔をして、「あのね、お嬢(じょう)さん。いくら振(ふ)られて投(な)げやりになってたからって、そんなことしちゃいけない。もし事件(じけん)に巻(ま)き込(こ)まれたらどうするんですか」
「彼、そんな悪(わる)い人には見えなかったわ。三日も一緒(いっしょ)にいたのに、あの人、何もしなかったのよ。あたしが仕事(しごと)から帰ってくるのを、食事(しょくじ)の用意(ようい)をして待ってくれてたんだから」
 そこへ別の刑事が入って来て、取り調(しら)べをしていた刑事の耳元(みみもと)でささやいた。
「ダメでした。部屋中きれいに掃除(そうじ)をされていて、指紋(しもん)どころか髪(かみ)の毛一本も採取(さいしゅ)できませんでした。まったく、几帳面(きちょうめん)すぎますよ」
 刑事は彼女に訊(き)いた。「で、その男はいつからあなたの部屋にいたんですか?」
「十日でした。十日の夜に彼と出会(であ)って…、十三日に仕事から帰ってきたら…」
「十日というと犯行(はんこう)の日だな。――で、あなたが売(う)ろうとしたあの宝石(ほうせき)、盗品(とうひん)だってことも知らなかったんですね。本当に男が置いていったんですか?」
 彼女は力なく肯(うなず)いた。刑事は一つ溜息(ためいき)をつくと言った。「お願いがあるんですが、男の顔は覚えてますよね? 似顔絵(にがおえ)の作成(さくせい)に協力(きょうりょく)して下さい」
「それが…、彼の顔を思い出そうとすると、別れた彼氏(かれし)の顔が浮(う)かんできちゃうんです」
<つぶやき>怪盗(かいとう)は彼女に何をしたのか…。果(は)たして怪盗(かいとう)の正体を摑(つか)むことができるのか?
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