「ねえ、どうしちゃったの? 非通知(ひつうち)でかけてくるから誰(だれ)かと思っちゃったわ」
君江(きみえ)は喫茶店(きっさてん)の席(せき)につくなり、すず子に言った。すず子は顔を隠(かく)しながら、
「誰にもつけられてない? ほんとうに、一人で来てくれた?」
「もちろんよ」君江はすず子の様子(ようす)が変(へん)なのに気づいて…。前から変なとこがある娘(こ)ではあったのだが、「何かあったの? 私に話してみて」
すず子は声をひそめて、「聞いちゃったの。聞いちゃいけないことをね。――あたし、監視(かんし)されてるのよ。だから、スマホも捨(す)てたし、それに…」
「ねえ、大丈夫(だいじょうぶ)? 何を聞いたの? 私にも教(おし)えて」
「……政府(せいふ)の陰謀(いんぼう)よ。詳(くわ)しいことは話せないわ。話したら、あなたまで…。普通(ふつう)にしてて。あたしたち、見られてるわ。まわりには、政府の人間(にんげん)がいるの。後ろの席(せき)の人とか、外(そと)で立ってるあの人もそうよ」
君江はそっと後ろを振(ふ)り返ってみた。後ろの席には、ごく普通の老夫婦(ろうふうふ)が座(すわ)っているだけ。そんな危険(きけん)な人たちには見えなかった。君江は優(やさ)しく微笑(ほほえ)んで言った。
「ねえ、私の家に来ない? ゆっくりお話ししよ。あなたの好きなクッキーもあるわよ」
「でも、あなたに迷惑(めいわく)をかけちゃうわ。それでも、いいの?」
「かまわないわよ。あなたの知ってること、ぜんぶ私に聞かせて。さあ、行きましょ」
すず子は先に席を立った。君江は立ち上がると、座っている老夫婦に目配(めくば)せした。
<つぶやき>まさか、君江さんも政府の回(まわ)し者なのかな。すず子は何を聞いちゃったの?
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