「結婚(けっこん)は良いわよ。一度はしといた方がいいんじゃない」
「いやいや、そういうの向(む)いてないんです。わたしは一人でいた方が気楽(きらく)っていうか…」
「なに言ってるのよ。何事(なにごと)も経験(けいけん)よ。それに人妻(ひとづま)って、とっても響(ひび)きが良いじゃない」
「あの、バツイチの人にそんなこと言われても、ちっとも羨(うらや)ましくないんですけど」
「バツイチをなめたらあかんで。失敗(しっぱい)は成功(せいこう)の友(とも)って言うじゃない」
「成功のもとね。わたしのことはいいですから、ほっといて下さい」
「あんたさ、もうおばさんの領域(りょういき)に足を突(つ)っ込みかけてるんだよ。キミちゃんみたいに、若(わか)くて、綺麗(きれい)で、何をしてもチヤホヤされる歳(とし)じゃないの。分かってる?」
隣(となり)で二人の話を黙(だま)って聞いていた後輩(こうはい)のキミちゃんが、何を思ったのか口を挟(はさ)んだ。
「あっ、あたし、いますから。来週、結婚するんですよ」
突然(とつぜん)の爆弾(ばくだん)発言(はつげん)に二人は唖然(あぜん)とした。キミちゃんは平然(へいぜん)とさらに続けて、
「あっ、そういうのって話したほうがよかったですか?」
「そりゃ、そうでしょ。私たちだって、お祝(いわ)いとか、したいじゃない…」
「でも、あたし、プライベートは職場(しょくば)には持ち込みたくないんですよね。それに結婚式といっても、内輪(うちわ)で簡単(かんたん)に済(す)ませるつもりなんで。式にお金をかけるより、新婚旅行(しんこんりょこう)を楽しむ方がいいじゃないですか。だから、来週から有給休暇(ゆうきゅうきゅうか)をとりますね」
<つぶやき>何ともすがすがしく言ってのけるキミちゃん。彼女の未来(みらい)に幸(さち)多かれと…。
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