昼休(ひるやす)み、学校(がっこう)のグランドのベンチで友だち数人とおしゃべりしていたときのこと。向こうから、私の憧(あこが)れの先輩(せんぱい)が歩いて来るのが見えた。友だちもそれに気づいて、ひそひそとささやきあった。学校で一番人気(にんき)の先輩だから、仕方(しかた)のないことなんだけど…。
先輩は私たちの前で立ち止まると、話しかけて来た。
「ねえ、君(きみ)って、山下(やました)かすみさんだよね」
どうして…、どうして私の名前(なまえ)を知ってるの! 私は突然(とつぜん)のことに目を丸(まる)くした。友だちが代わりに答えて、「そうです、彼女です」私の背中(せなか)を押(お)して先輩の前へ…。
「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
先輩が私に…。友だちは、「どうぞ、どうぞ。私たち先に行ってるね。遅(おく)れちゃダメだよ」
そう言うと、私をおいてはしゃぎながら行ってしまう。ちょっと待ってよ…。
「座(すわ)ろうか」先輩はベンチに腰(こし)をおろす。私も、少し離(はな)れたところへ腰掛(こしか)ける。
先輩が私を見つめる。今まで遠くから先輩を見てただけだから、この距離(きょり)で見つめられると、さすがに直視(ちょくし)することなんかできない。私はぎこちなく目をそらす。先輩は、
「あのさ、君、Aクラスだろ? 内藤(ないとう)かおりの、友だちだよな…」
えっ?! そこ…。そこいっちゃうの? あああああああ…。なんでよ、私じゃ…。
<つぶやき>誰(だれ)しも好きな人の前では気後(きおく)れしてしまうものなのです。彼もその一人かも。
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