行きつけの居酒屋(いざかや)で良樹(よしき)を前にして彼は言った。「何で話してくれなかったんだよ」
「だってさ、まさかお前のとこ行くなんて思わなかったし…。それに、別れた女のこと話しても、お前、気分悪(わる)いだけだろ。あんな別れ方したわけだし」
「そ、それはそうだけど…。一言(ひとこと)、言ってほしかったよ」
「悪かったよ。でもな、まさかお前を捨(す)てるとはなぁ、思わなかったぜ」
「別に、捨てられたわけじゃ…」
「なに言ってんだよ。<他に好きな男ができたからバイバイ>ってメールが来たんだろ。それ以来(いらい)、消(き)えちまって、連絡(れんらく)つかなかったじゃないか。そういうの、捨てられたって言うんだよ。お前は人が良すぎるんだ。何でガツンと言ってやんなかったんだよ」
突然(とつぜん)、女の声がした。「何のはなし? ガツンって…」
そこにいたのは、元カノだった。隣(となり)の席(せき)に座(すわ)ると、「やっぱりここだったのね。もう、相変(あいか)わらず行動範囲(こうどうはんい)が狭(せま)すぎ。すぐに分かっちゃったわよ」
良樹は立ち上がると、「俺(おれ)、行くわ。ちょっと用事(ようじ)…思い出しちゃって。後は、なっ…」
彼女は良樹が行ってしまうと、彼の隣(となり)の席に移(うつ)って言った。「あたしたちに気を使っちゃって…。前にもそんなことあったわよね」
彼はコップのビールを飲み干(ほ)すと彼女に言った。「何で…、どういうつもりなんだよ」
<つぶやき>彼女は何を言うのかな。二人は元のサヤに戻(もど)ることができるんでしょうか?
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