みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0662「異邦人1」

2019-09-19 18:24:24 | ブログ短編

 私がその娘(こ)に会ったのは去年(きょねん)の今頃(いまごろ)だった。その少し前、私たち家族(かぞく)はこの町へ引っ越して来た。――新しい学校へ通う通学路沿(ぞ)いに壊(こわ)れかかっているアパートが建っていて、そこで彼女は暮(く)らしていた。というより、棲(す)みついていたと言った方がいいのかもしれない。
 私たちが出会うきっかけになったのは、そのアパートの二階の窓辺(まどべ)にあった薄紅(うすべに)色の花の鉢植(はちう)え。私にはその取り合わせが妙(みょう)に気になった。どんな人が住んでいるのか…。
 私がアパートを見上げていると、隣(となり)に住んでいる人が通りに出てきて私にささやいた。
「ひどいアパートだろ。もう人は住んでないんで、もうじき取り壊(こわ)されるんだけどね」
 誰(だれ)も住んでない? でも、あの花は…。どうなっちゃうんだろう。私はますます気になってしまった。学校の帰り道、私はそのアパートへこっそり入ってみた。玄関(げんかん)を入って薄暗(うすぐら)い廊下(ろうか)を抜(ぬ)けると、二階へ行く階段(かいだん)があった。私は恐(おそ)る恐るその階段を上がって行く。ギシギシときしむ音がして、階段が壊(こわ)れるんじゃないかと冷(ひ)や冷(ひ)やした。
 階段を上がりきると、目の前にドアがあった。あの鉢植えが置いてある部屋のドアだ。私はドアの前で立ちどまり、大きく息(いき)をつく。そしてドアノブをつかむと――。
 ギーッっと音を立ててドアが開いた。部屋の中は何もなくガランとしていた。窓から射し込む夕陽が、ほんのわずかだが部屋の中を染(そ)めていた。私は部屋に入ると、窓へ向かって歩いて行った。でも数歩も行かないうちに、私は後から突(つ)き飛ばされ床(ゆか)へ倒(たお)れ込んだ。
<つぶやき>勝手(かって)に入っちゃいけませんよ。でも、これは未知(みち)との遭遇(そうぐう)だったのかもね。
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