とある大学の実験室(じっけんしつ)。いま、今世紀(こんせいき)最大の実験が始まろうとしていた。だが、楽しそうにしているのは教授(きょうじゅ)だけで、助手(じょしゅ)の面々(めんめん)は困惑(こんわく)の表情(ひょうじょう)を浮かべていた。実験台(じっけんだい)として指名(しめい)された助手の青年(せいねん)が訴(うった)えた。
「教授、本当(ほんとう)に大丈夫(だいじょうぶ)なんですか?」
教授は歓喜(かんき)の歌(うた)を口ずさみ、装置(そうち)のスイッチをいくつも押(お)しながら、
「何を心配(しんぱい)してるんだ。実験は間違(まちが)いなく成功(せいこう)する。戻(もど)ったら祝杯(しゅくはい)をあげようじゃないか」
「すいません。僕(ぼく)はここへ来て日が浅(あさ)いもので…。予備(よび)実験は成功(せいこう)してるんですよね?」
「もちろんだ。前回やった実験では、リンゴがバナナに変わってしまったが――」
「ちょっと待って下さい! それじゃ、僕は…、ちゃんと戻ってこられるんですか?」
「ちゃんと装置の微調整(びちょうせい)は終わっている。この転送装置(てんそうそうち)が完成(かんせい)すれば、君(きみ)は有名人(ゆうめいじん)になれるぞ。わしもノーベル賞(しょう)が待っておる」
「でも、でも、教授」青年は慌(あわ)てた口調(くちょう)で、「あの、まだ人体(じんたい)実験は早すぎるのでは…」
「何を言っとる。わしはこの研究(けんきゅう)を五十年も続けてるんだぞ。いい加減(かげん)あきあきして――」
その時、助手の一人が声をかけた。「教授、パワーの充填(じゅうてん)が終わりました」
「そうか。じゃあ、始めるぞ。みんな位置(いち)についてくれ。スタートだ!」
教授が起動(きどう)のスイッチを押した。すると、グワ~ンと装置の音が響(ひびき)きだす。教授はそれを見とどけると、「わしはひと休みだ。あとは頼(たの)むぞ。転送終了(しゅうりょう)は二十四時間後だ」
<つぶやき>そんなにかかるの? それじゃ、バナナに変わっちゃうこともアリかもね。
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