みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0668「手をつける」

2019-09-25 18:33:08 | ブログ短編

 吉行(よしゆき)は婚約者(こんやくしゃ)から問(と)い詰(つ)められていた。だが、吉行には何のことなのか思い当たらない。
「婚約者のあたしにも、言えないことなんですか? ひどい…」
「だから、君(きみ)が何を怒(おこ)っているのか…、僕(ぼく)にも分かるようにはっきり言ってくれないか?」
「そんなこと…。あたしの口からは…、恥(は)ずかしくて言えないわ」
「恥ずかしい? えっ、どういうことかな…」
 吉行はしばらく考えていたが、何か思い当たることがあったのか顔色(かおいろ)を変えた。
 その様子(ようす)に気づいた婚約者は、「やっぱりあるんですね、手をつけた事実(じじつ)が」
「手をつけるって…。あれは、そういうあれじゃないよ。別に恥ずかしいことでも何でもないから…。たまたま、昼(ひる)のランチを、二人で食べただけで…」
「えっ、そんなことがあったんですか? 初耳(はつみみ)ですわ」
「はっ、その話じゃないのかい?」
 婚約者は姿勢(しせい)を正(ただ)すと静(しず)かな口調(くちょう)で言った。「その話、もっと詳(くわ)しくお聞かせくださらない? いったい、誰(だれ)とランチをなさったの?」
「誰って…、もちろん会社(かいしゃ)の同僚(どうりょう)だよ。会社の近くにある店(みせ)なんで、みんな利用(りよう)してて…」
 婚約者は吉行の顔をじっと見つめていた。彼は耐(た)えられなくなり、
「後輩(こうはい)の、女性です。でも、ぜんぜん何でもないから。ほんとに偶然(ぐうぜん)なんだよ。たまたま、お店に入ったら彼女がいて…。待ち合わせしたわけじゃないから――」
<つぶやき>彼女が聞きたかった恥ずかしいことってなに? 何に手をつけたのでしょう。
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0667「パートでスパイ」

2019-09-24 18:28:39 | ブログ短編

「局長(きょくちょう)。何なんですか、これは?」
「やあ、J君(くん)。あらぁ、見つけちゃった? さすがだね。良いアイデアだろ」
「冗談(じょうだん)じゃありませんよ。スパイの募集(ぼしゅう)を新聞広告(しんぶんこうこく)に出すなんて、非常識(ひじょうしき)です」
「でもね、ほら、上の方から経費削減(けいひさくげん)しろってうるさいんだよね。もちろん、この広告費(こうこくひ)は私のポケットマネーで、あれしてるから…」
「そういうことじゃなくて、スパイの仕事(しごと)は誰(だれ)でもできることじゃ――」
「それは分かってるよ、私もね。だがね、スパイの養成(ようせい)には金もかかるし、それにいま活動(かつどう)している局員(きょくいん)も高齢化(こうれいか)ときてる。ここは目先(めさき)を変えてだね…」
 局長は履歴書(りれきしょ)の束(たば)を取り出して、「ほら、こんなに応募(おうぼ)が来てるんだよ。こんなこと今までなかったことじゃないか。これほど反響(はんきょう)があるなんてびっくりだ」
「ほんとにやめて下さい。上の方が、そんなこと許可(きょか)するわけないじゃないですか」
「それは大丈夫(だいじょうぶ)だよ、話はついてるから。試験的(しけんてき)に一人採用(さいよう)してもいいことになってる。そこでだ、私が一人選(えら)んでおいた。主婦(しゅふ)なんだけどね、これがなかなかいい娘(こ)なんだ」
「主婦? 主婦をスパイにするんですか? そんなのあり得(え)ないでしょ」
「いや、主婦目線(めせん)は役立(やくだ)つと思うんだけどなぁ。とりあえず、週(しゅう)三日のパートということで、どうだろうか? 先方(せんぽう)には、明日からということで連絡(れんらく)しといたから――」
<つぶやき>これは間違(まちが)いなく局長の好みが入っていると思うんですが…。大丈夫なの?
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0666「みんな知ってる」

2019-09-23 18:28:47 | ブログ短編

 日村(ひむら)はアシスタントの祐子(ゆうこ)を前にしてネチネチと言い放(はな)った。
「こんな陳腐(ちんぷ)なシチュエーション使えるわけないだろ。初恋(はつこい)だの、初キッスだの、青春(せいしゅん)のなんちゃら、なんてシナリオ、よく書けるな。今はな、もっとドロドロなのが受けるんだよ。あれか? もしかして、お前の願望(がんぼう)が入ってるのか?」
「ち、違(ちが)います。そんなんじゃありません…」祐子は抗議(こうぎ)するのだが――。
「フン、どうせ恋愛(れんあい)なんかしたことないんだろ。そんなヤツが、よく恋愛ドラマが書けるな。どうせ、あれだろ。どっかからパクって来てるんだろ。まったく使えねえなぁ」
「そんな…。私、そんなことしてません…」
 日村は祐子の耳元(みみもと)でささやいた。「あのな、この間(あいだ)のドラマがヒットしたからって、いい気になるなよ。あれは、お前の作品(さくひん)じゃなくて、俺(おれ)の作品だ。忘(わす)れるな!」
 その時、制作会社(せいさくがいしゃ)のプロデューサーがやって来た。日村とにこやかに挨拶(あいさつ)を交(か)わすと、
「いや、この間のが好評(こうひょう)でね。テレビ局から次の話が来てるんだよ――」
 プロデューサーの目が、机(つくえ)の上にあるシナリオに止まった。
「これ、新しいの? いやぁ、助(たす)かるわ。これ、読(よ)ませてくれないかな?」
 日村は慌(あわ)てて、「あの、それは、ボツにしたやつでして…」
 プロデューサーは表紙(ひょうし)に書かれてある作者名(さくしゃめい)を見て、「ああ、アシスタントの…」プロデューサーは祐子に話しかけた。「君(きみ)の作品だね。この間の良かったよ。期待(きたい)してるからね」
<つぶやき>プロデューサーは分かっていたのです。この男に恋愛ドラマは書けないと…。
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0665「しずく48~発光」

2019-09-22 18:17:36 | ブログ連載~しずく

 アキは立ち上がると、「こっちよ」と、あずみを手招(てまね)きして先(さき)に歩き出す。彼女の向かった先に扉(とびら)が現れた。つくねは驚(おどろ)いた。だって、そこには扉なんかなかったはずなのに…。扉が開いて、三人は中へ入って行った。
「さあ始めましょ。そこに座(すわ)って」
 ハルが指(ゆび)さした場所(ばしょ)。そこは、さっきまでお茶(ちゃ)を楽しんでいたところだ。いつの間にかテーブルと椅子(いす)が消(き)えていて、真っ白な大きなソファが置かれていた。つくねは言われるままにそこに座る。座った途端(とたん)、つくねは思わず声をあげてしまった。なんてフワフワで、身体(からだ)を優(やさ)しく包(つつ)み込んで…。こんな座り心地(ごこち)は初めてだ。ハルはつくねの前に膝(ひざ)をつくと、
「腕(うで)を伸(の)ばして。そう、手は足の上において。大丈夫(だいじょうぶ)よ、痛(いた)くはないし、そんなに時間はかからないわ。じゃ、目を閉じて、身体の力を抜(ぬ)いて――」
 ハルは両手(りょうて)をつくねの火傷(やけど)の場所にかざした。しばらくするとハルの手が白く輝(かがや)きを放(はな)ち始めた。その光は、つくねの全身(ぜんしん)を包み込んだ。つくねには何が起きているのか分からなかった。何か暖(あたた)かいものに優しく抱(だ)かれているような…。つくねは亡(な)き母の姿(すがた)が頭に浮(う)かんで、ひとすじ涙(なみだ)がこぼれた。
 ――つくねは意識(いしき)が薄(うす)れていく中で、誰(だれ)かが叫(さけ)んでいる声をかすかに聞いた。
〈助(たす)けて、ハル! あたし、引き込まれちゃう。手を貸(か)して――〉
<つぶやき>しずくに何か起きたのでしょうか? これからどんな展開(てんかい)を見せるのか…。
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0664「憧れの先輩」

2019-09-21 18:31:40 | ブログ短編

 昼休(ひるやす)み、学校(がっこう)のグランドのベンチで友だち数人とおしゃべりしていたときのこと。向こうから、私の憧(あこが)れの先輩(せんぱい)が歩いて来るのが見えた。友だちもそれに気づいて、ひそひそとささやきあった。学校で一番人気(にんき)の先輩だから、仕方(しかた)のないことなんだけど…。
 先輩は私たちの前で立ち止まると、話しかけて来た。
「ねえ、君(きみ)って、山下(やました)かすみさんだよね」
 どうして…、どうして私の名前(なまえ)を知ってるの! 私は突然(とつぜん)のことに目を丸(まる)くした。友だちが代わりに答えて、「そうです、彼女です」私の背中(せなか)を押(お)して先輩の前へ…。
「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
 先輩が私に…。友だちは、「どうぞ、どうぞ。私たち先に行ってるね。遅(おく)れちゃダメだよ」
 そう言うと、私をおいてはしゃぎながら行ってしまう。ちょっと待ってよ…。
「座(すわ)ろうか」先輩はベンチに腰(こし)をおろす。私も、少し離(はな)れたところへ腰掛(こしか)ける。
 先輩が私を見つめる。今まで遠くから先輩を見てただけだから、この距離(きょり)で見つめられると、さすがに直視(ちょくし)することなんかできない。私はぎこちなく目をそらす。先輩は、
「あのさ、君、Aクラスだろ? 内藤(ないとう)かおりの、友だちだよな…」
 えっ?! そこ…。そこいっちゃうの? あああああああ…。なんでよ、私じゃ…。
<つぶやき>誰(だれ)しも好きな人の前では気後(きおく)れしてしまうものなのです。彼もその一人かも。
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