「司祭だからと、祈るものとは限らないのでは?」
疲れていたのだろうか、思ったことがとどまらないで口をついた。
ヒューベルトは疑問めいた言葉にきちんと答えてから、こちらの皿に載ったものを見て、視線をそらせる。
山のように甘いものばかりが積まれているのは、考えに行き詰まって頭が働かなくなってきた気がしたからだ。こういう時は、甘いものを食べるに限る。
昼どきと言うには遅く、夕食には少し早い。そんな時間の食堂に、遅くなりすぎた朝食を摂りに来たものらしい。斜め前に座ったのは、否定的な言葉を言うのに感情を乗せすぎないためだ。余計なことを言わずにいたら、もう少し近いところに……いや、プディング、ケーキ、クッキー、クリーム付きスコーン、各種取り揃えた甘味を見れば素通りしたかもしれないから、この距離は彼の許せるぎりぎりの近さと思うことにしよう。菓子はにおいだけでもずいぶんと甘い。
「高位の神官の役割は、信者を祈らせることであって、自らが祈ることではありませんよ」
名鑑の記載通り宮城の典礼司の家系なら、そういう神官とのやり取りもあったのかもしれないな。
手短に済ませようとしたのか、いきなり劇物を摂るのを避けたのか、タイミングが合わなかったのか、斜め前の皿に載っているのは軽食だ。残念ながら、こちらにあるのは苦手そうな甘いものだけだったので、安易に分けてやるわけにもいかない。
ダークプリーストは何に祈るのか。例えばライブを唱えるときに。
きっと女神ではない。それだけのこと。
「疑うな、敬え、嘘をつくな。人から考える力を奪い、都合よく使う戒律にはちょうど良い文言というものです」
教団の施設で言うには問題がある気もするが、聞き耳を立てるものもないと理解しているのだろう。人は多くないし、彼の姿を見てこちらへの距離を取ったものもいた。
「きっと女神は許すよ。疑っても、嘘をついても。たぶん、敬わなくても」
考えなしの行動を叱りつけもする。
「それが救いになるものもいるのでしょうな」
ただ、彼はそうでないだけだ。事実としてそうでなかっただけだ。言外に物語る感情は、口に含む甘味を痛みに変えてくる。
どうせ一緒にいて食べるならお互いにおいしいものがいいな。
「このあと、厨房を借りて、一緒に肉焼いて食べない?」
食べたいからとみだりに殺した獣の肉を。ついでにみんなの分も。
「は?」
食事の最中に次の食事の話。
甘いものを食べても十分に考えがめぐらないなら、誰かの助けが必要だ。助けてくれないかな。
ヒューベルト、こんなことを言うと心外かもしれないから黙っていようかとも思うのだけれど、君の姿は、有り様は、まるで祈りのようだ。だから、何にと思ってしまった。そこにいられるわけでもないのに。
「は?」と返して反感を買わないのは人望だろうか①/ダークプリースト