キ上の空論

小説もどきや日常などの雑文・覚え書きです。

嘘を吐く、そしてため息を

2020年11月15日 | 二次創作・短文
 表情に出にくいのは良いことなのかも知れない。
 酸味のある果物には大抵渋みもある。と言うより、酸味と言うほどの鋭さのないものを渋みというのではないか。同じ種類の味。渋みは苦みと混同しやすい。それはそれ。近頃酸味のあるものを食べる頻度が増えたのは、慣れるためだろう。そうしても良いと思える誰かと顔を合わせるとき、表情を取り繕う必要がないように。
 クロテッドクリームで和らげられた酸味は幾分か渋みに近い。酸味のあるクリームと酸味のある果実を組み合わせても、そのまま酸味が上乗せされるわけではない。例えば、ビネガーと柑橘の組み合わせは単に酸味の方向性を変えるだけだ。苦手でも許せる酸味はあるから、そこを探っていく。
 味だけならおおよそ菓子と呼べない代物を、好むものを邪魔しない程度の風味を持たせつつ。その作業は楽しい。でも、ちょっと苦しい。
 苦手なものは苦手だと、はっきり言ってくれるので、そこはありがたい。
 どんなことを話したのか、何をしてきたか、掻い摘まんで知らせてくれるのも、その取捨選択も含めてこちらの期待に応えるものだ。
 なのに、機嫌良さそうに「子供に泣かれた」と、寂しそうに「楽しかった」と言うのを聞くのは、思ってたより幸せな気持ちじゃないみたいだ。
 どこまでも知りたい。でも、何もかもを知りたいわけじゃない。
 生まれてから二十年以上笑いもしなかったくせに、自分の感情が煩わしいだなんて、随分と贅沢になったものだ。
 だから、だいたい「良かった」と返す。事実上嘘ではないけれど、心情的には嘘のようなもの。嘘はばれる。だから嘘にならないことを言う。
 言い方はともかく、感情がまっすぐな人だ。だから、嘘はばれる。
 子供が泣くのは安心できる場所があるからだ。だからって、泣かれたいわけじゃない。
 嫉妬はしんどいと学んでしまった。それでも、このため息は飲み込んでしまおうと思っている。
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