日本ジャーナリスト会議(JCJ)による今年度の「JCJ賞」に、「しんぶん赤旗」日曜版編集部の「『ブラック企業』を社会問題化させた一連の追及キャンペーン」が選ばれました。何を報道し、何を動かし、どうして「赤旗」が報じることができたのか―。
過酷実態克明に
4月、編集局に男性読者から一本の電話がありました。男性は介護関係の仕事に就き、労働条件を巡って会社を訴え勝利和解を得たといいます。
「日曜版の記事(ブラック企業追及)を読んでいたからたたかえた。勇気を与えてくれたことにお礼が言いたい。今後も、理不尽な会社に屈せずたたかう労働者の姿をたくさん描いてほしい」
日曜版取材班が、ブラック企業の追及キャンペーンを開始したのは2013年6月。同年8月からは連載名を「ブラック企業連続追及」とし、今年7月末時点で掲載回数は20回を超えています。
取材対象は、ブラック企業大賞2013に選ばれた「ワタミ」グループ、衣料品大手「ユニクロ」、大手ファーストフードチェーン「ロッテリア」など有名企業ばかりです。
ブラック企業は、若者をはじめ働く人を、過酷な労働に追い立て、モノのように「使い捨て」ます。
連載では、うつ病でユニクロの職場を辞め、いまでも病気で苦しんでいる女性や、月300時間も残業していたロッテリア元店長などの実態を取材し、告発しました。
とくに多くの情報が寄せられ、連続追及したのは「ワタミ」グループでした。ワタミはブラック企業の象徴的企業で、創業者の渡辺美樹氏が自民党参院議員として政界にまで出ました。
ワタミは居酒屋が有名ですが、グループ企業は介護事業や食事の宅配事業にまで手を広げています。
その一つが「ワタミの介護」。入所者の死亡事故が頻発して大きなニュースになりましたが、その背景にあった職員の過重勤務や事故報告隠しを内部資料で明らかにしました。
「ワタミの宅食」では、諸経費を宅配員が負担するという脱法的手法で、宅配員の手取りが実質、最低賃金以下となっている実態を告発。売り物の「安否確認サービス」を怠って遺族が訴訟を準備していることを独自に報じました。
追及に事態動く
日曜版による連載と党国会議員団による国会での追及があいまって、行政も動かざるをえなくなりました。
国会で日本共産党はいち早くブラック企業問題を取り上げ、ユニクロやワタミなど企業名をあげて追及。実態調査と厳しい監督指導、離職率の高い企業名の公表、長時間労働の規制―などを要求してきました。
昨年7月の参院選では、ブラック企業問題をとりあげた日本共産党が躍進。こうした動きに押され厚生労働省も同年9月、離職率が高い企業や、過重労働・法違反の疑いがあるブラック企業に重点監督を実施せざるをえませんでした。
党国会議員団は同10月、ブラック企業規制法案を国会に提出。法案の柱のひとつ「離職率の公表」の実施を厚労相に約束させるなど、事態を動かしてきました。
日曜版が追及した具体的問題でも動きがありました。
「ワタミの介護」が事故報告隠しをしていた問題では所管の横浜市が、ワタミを厳重注意。ワタミは隠していた数十件の事故報告書を提出せざるをえませんでした。職員の過重勤務についても一部の施設ですが是正されました。
タブーなく取材
今回の受賞理由をJCJはこうのべています。
「『ユニクロ』『ワタミ』などと、具体的に企業名を挙げ、過酷な労働実態を追及し続けた『しんぶん赤旗』の報道姿勢は特筆に値する」
実際、一部の週刊誌を除いて多くのメディアは、具体的な企業名を上げての系統的な追及はできませんでした。なぜか―。
多くのメディアは、大企業の広告収入をあてにしているからです。ある大手メディアの記者も「ユニクロやワタミなどは大量の広告・宣伝を出しており、経営的にはなかなか批判がしづらい」と本音を漏らします。
日本共産党は企業・団体献金を受け取っていません。「赤旗」収入の大半も読者からの購読料で、大企業からの広告料収入などには依存していません。そのため、大企業にもタブーなく取材ができ、報道できます。
もう一つ大事なことは、日本共産党や「赤旗」が、働くものの権利や労働条件を守るという確固とした立場にたっていることです。今回のブラック企業追及もその一環です。
情報提供者のひとりは、「クリーンかつ調査能力のある共産党ならば、きっと職場を是正してくれると期待して情報を託した」と振り返ります。
現在も大勢の読者から「ブラック企業追及を続けてほしい」などの期待の声が寄せられています。
“報道姿勢特筆に値”
「赤旗」の授賞理由は以下の通りです。
働く人々の人格の蹂躙、雇用制度改悪の尖兵ともいうべき「ブラック企業」。当初は「しんぶん赤旗」日曜版の独自報道だった。だが、次第に社会問題化するにつれ、一般紙も追随し、政治や行政を動かした。多くのスクープや連載などの長期にわたるキャンペーンで「ユニクロ」「ワタミ」などと、具体的に企業名を挙げ、過酷な労働実態を追及し続けた「しんぶん赤旗」の報道姿勢は特筆に値する。