この本は2021年10月に読了したものを著作権の消滅を確認したので、改めて図を転載して再掲
現代日本文学館 17 谷崎潤一郎 Ⅱ 「細雪」 下の図は著作権の消滅を確認したので転載した
大阪船場で父親の代まで資産家だった4人姉妹を中心とした物語。本書での時代は昭和11年から16年の戦争の時代だが、その影響は殆ど出てこない。
本家は長女の鶴子夫妻が継ぎ、中途から夫の転任で東京渋谷へ転居。次女幸子夫妻は芦屋住まい。独身の下の2人はなんやかやと理由を付けては本家を敬遠、分家の芦屋に住むことが多い。
大きな事件も無く花見、芝居見物、蛍狩など一家で出かけて楽しむ様子がいかにも上流社会。祥子夫妻の隣家はドイツ人ご夫妻でお子さん2人を含め家族との交流が楽しいが、ヨーロッパも風雲を告げ急遽横浜から帰宅することに、この見送り風景も珍しい。妙子は船場のぼんぼんの求愛を断り、恋人との子を死産の不運。
雪子は数回のお見合いも断り続け、やっと子爵の後裔と成就、めでたしと幕。
文中「ご寮人さん」-娘または若い妻のこと、「こいさん」-お嬢さんのこと、「お春どん」-女中お春のこと、が、関東人には新鮮だ・・・そして、巻末に20頁に亘って注解があるのがとても参考になった。
本書が初めて「中央公論」に出たのは昭和十八年の新年号であったが、それから三月号に載り、次いで七月号に掲載される筈のところがゲラ刷りになったままついに日の目を見るに至らなかった。陸軍省報道部将校の忌諱に触れたためであって「時局に沿わぬ」と言うのがその理由であった。巻末の解説(井上靖)によると「『細雪』回顧」の中で作者は語っている、という。
著者の松子夫人は本書付録の(二)で、「私の家族がモデルといわれておりますが、それはもう私や妹たち雰囲気-性格は申すに及ばず、小さな癖や言葉使いまで、じつにあますところなく写しとられていると思います」と書かれている。想像だが二女幸子のモデル?
久し振りに良質な小説に出会って、毎日堪能した。長編では「カラマーゾフの兄弟」「ドンキホーテ」「夜明け前」以来か。
↑14-15頁 挿絵
右から 鶴子(長女)秋野不矩 画 幸子(次女)堀 文子 画
雪子(三女)広田多津 画 妙子(四女)朝倉 攝 画
↑巻末解説(井上 靖)547頁から
谷崎潤一郎 歌 棟方志功版画
「細雪に題す 姉妹が袖打ちかけし欄干に緋鯉真鯉にけふもつどい来」
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