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マイスモールランド

2024-10-13 11:35:00 | 映画
 
在日クルド人の問題をクルド人少女の視点から描いた映画。

原作・脚本・監督は川田恵真。  

楽しい作品ではない、むしろ苦しくなる。
内容がフィクションなら楽しめるかもしれないが、そういうわけにはいかない。深刻な難民問題、入管問題の現実だからだ。

大声をあげることもなく、暴力シーンもなく、情に訴えるような撮り方もしていない。
穏やかにルポルタージュ的な手法をとりいれている。
 


サーリャ(嵐莉菜)は、父親、妹、弟と4人家族、母親は既に亡くなっている。
彼女は幼い頃から日本で育ったクルド人。
容貌こそ外国人だが日本人の女子高生と同じ感覚。
違うとすれば、帰宅すればバイリンガルゆえ通訳など同胞のサポートをしていること。
食事はクルド料理で食事前はクルド語でお祈りをすることだ。
「クルド人としての誇りを失わないように」父親の思いがあるが、子どもたちとはズレがあり彼女たちは逆に日本人化していくのは避けられない。     



サーリャは教員になる夢をもっている。小学生時の担任のようになりたいのだ。おそらくイジメにあったときに励ましてくれた恩師なのだろう。
大学進学は学校推薦を受けられると担任教師との面談で言われている。
「部活辞めなきゃ確実だったんだが」
「家の事情があって」
事情は学資を貯めるためのバイトだ。帰宅が遅いのは部活のバトミントンだと父に言っている、コンビニでのバイトは内緒にしている。

バイト先には同い歳くらいで熱心に働く高校生・聡太(奥平大兼)がいる。2人は次第に親しくなる。聡太は母子家庭。サーリャはクラスメイトにはドイツ人だと言っているが聡太にはクルド人だと本当のことを明かす。
聡太は大阪の美大を志願しており、
一緒に大阪に行こうとサーリャは誘われる。

ある日、父親マズルムの難民申請は認定されず、在留資格の更新も認められないとの知らせが入る。
マズルムは入管施設に収容される。 

仮放免」となったものの、就労禁止、保険証もなく、入管の許可なしでは県外にも出られない。家族全員だ。  
マズルムはトルコに帰ったとしても、独立闘争に参加していたことから拘束されるおそれが高い。故に難民申請しているのだが。
もっとも日本政府は基本的にクルド人の難民申請を受け入れていない。

山中弁護士(平泉成)は、まずは健康でいることだ、保険がきかないから、と助言する。さらに再度難民申請をすること、裁判で争うことを勧める。
裁判で難民認定されたのは過去1件しかしないということだが。

マズルムは違法を承知で働くが職務質問にあい、入管施設に強制収容されてしまう。

クルド人のコミュニティがあるとはいえ、大黒柱を失い。たちどころ不安と混乱に陥る。家族もまとまりがなくなってくる。



寄り添ってくれるのは、母子家庭の聡太とその母親(池脇千鶴 )だ。つかの間のひと息みたいなものだ。語れる人は夫が施設に収容されたままのクルド人女性。

さらに家賃が滞り大家から立ち退きを迫られる。大家は小倉一郎が演じている。
大病したときいていたが小倉さんの健在な姿をみた。

貯めたバイト代、知り合いのクルド人たちから借りても足りず、サーリャは友人に誘われるままパパ活に足を踏み入れる。
要求がエスカレートしてくるパパに耐え切れず逃げ出す。
「日本から出ていけ」と罵声を浴びる。

聡太の家で、聡太、母、サーリャ、ロビンがささやかな食卓を囲むシーンは幸せそうにみえるが、サーリャの心は重い。

サーリャはコンビニをクビになる。
「不法就労はさせられない」さらに「聡太には会わないで欲しい、母親が心配しているので」と店長(藤井隆)に告げられる。

店長の言葉は我が国の言葉だ。

丁寧だが拒絶、拒否なのだ。
サーリャは八方塞がり、在留資格のないクルド人。


バイト先に行くのに自転車で橋を渡るシーンがあるが、都県境は北区と川口市を繋ぐ橋だ。まだ現地確認はしていないが荒川に架かる新荒川大橋だ。



橋の中央の都県境に聡太と二人でつけた手形は消され「落書き禁止」の札が貼られてしまう。

聡太の想像を超えるサーリャの事情。
2人の関係は悲恋の様相が色濃くなる。
大阪には行けない。行きたくなくなった。と聡太にはきちんと告げるサーリャ。
大阪どころか大学進学も厳しい状況だ、ビザがないと入学もできない。
生活そのものが危機的状況。 

ある日弟のロビンが家に帰ってこない。
石を探していたという幼いロビン。
「この石もクルドの石もなんも変わらん」
父の言葉を覚えている。
ロビンが暗示的に夢や希望を与えてくれているのだろうか。

マズルムは子どもたちの将来のために重大な決意をする。   
マズルムが語る、故郷のオリーブの木の話。「サーリャが生まれたときオリーブの木を植えた。毎年1本づつ5本しか植えられなかった。お前の母さんが木のそばで眠っている。だから行くんだ」



親がビザを諦めた代わりではないが、子たちにはビザを与えられた例がある、マズルムからは言わないでくれと言われたが。
山中弁護士はサーリャに明かす。

事態は何一つ好転したわけではない。
むしろ残酷すぎる。

子どもだけが残った家族は、コミュニティや善意のひとたちに支えられていくのだろうか。

アパートの前にオリーブの鉢がある。かつては父が水をやり、次にサーリャが、そしてロビンが水をやるようになった。

聡明なサーリャは涙など見せず、(日本で)生きて行こうとする意思を強い眼差しで表現する。
残酷すぎる現実は続く。



サーリャを演じた嵐さんはとても綺麗な方だ。後からモデルさんだと知った。映画は初出演だという。素晴らしい演技だ。
さらに映画の父親、妹、弟も実際の家族だと後から知り驚いた。
彼らの自然な演技に、一家に拍手を送りたい。



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