MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2288 未婚男性と年金の繰り下げ受給

2022年11月04日 | 社会・経済

 老齢年金(公的年金)は老後の生活を支える貴重な収入です。老後の資金計画を立てる上で、年金を「いつからもらえるか?」は「いくらもらえるか?」に次いで悩ましい問題といえるでしょう。

 人間、長生きできる保証もないわけですから、年金は早く受け取り始めた方が何となく得な気がします。しかし一旦、年金の繰り上げ請求をしてしまうと、支給金額が(その分)減額されるという大きなデメリットが発生するのも事実のようです。

 老齢年金には(一階部分と言われる)老齢基礎年金と(二階部分の)老齢厚生年金がありますが、いずれも支給開始年齢は原則65歳とされています。

 しかし、申請すれば60歳から65歳になるまでの間に(月単位で)繰り上げて受給することが可能となる。減額されるのは、繰り上げ期間1ヵ月につき0.5%で、例えば60歳から受け取ろうと思えば30%の減額、61歳ならば24%の減額という具合に、結構大きく減額される仕組みになっています。

 一方、(高齢になっても「現役」として働く人が増えた)近年の老齢年金には、66歳以降に繰り下げて受給することができる「繰り下げ受給」という制度も設けられています。

 この場合は(もちろん繰り上げの場合とは反対に)支給額が増額されることになり、増額幅は繰り下げ期間に応じて1ヵ月につき0.7%。70歳以降は増額が止まるものの、69歳からの支給とすれば33.6%、ギリギリの70歳まで我慢すれば 42.0%の大幅アップも夢ではありません。

 繰り上げ・繰り下げのどちらを選ぶかは、「幾つまで生きられるか」という自信に懸かっているのでしょうが、(因みに)計算上の損益分岐点は76歳8か月とのこと。それ以上長生きする自信があれば繰り下げ受給も検討に値するということでしょう。

 日本人の平均寿命は、男性で81.41歳、女性で87.47歳ということですので、普通に考えれば皆が繰り下げ受給をしてもよさそうなものですが、実際に「繰り下げ」を選択している人は、老齢基礎年金で1.5%、老齢厚生年金では0.8%に過ぎないとされています。

 一方、繰り上げ受給をしている人は老齢基礎年金で12.3%もいるという現実からは、(とりあえず)目先の生活費を優先せざるを得ないという高齢者の生活が見て取れるところです。

 さて、昨今話題の(こうした)老齢年金の繰り下げ・繰り上げの問題に関し、10月14日の「AERAdot.」に、『年金繰り下げ受給に不都合な「独身おじさん寿命短い」問題』問題と題するコラムニストの荒川和久氏へのインタビュー記事が掲載されていたので、この機会に紹介しておきたいと思います。

 今年4月から公的年金の受け取りを最長75歳まで繰り下げることができるようになった。繰り下げ受給することで受け取る年金額が増加する。ゆえに、政府は繰り下げ受給をアピールし、それを後押ししているようだが、そこでめったに語られないのが「未婚男性」の存在だと、荒川氏は記事の中で話しています。

 生涯未婚率が年々上昇する中、2020年現在でも男性28.25%、女性17.81%が生涯一度も結婚しないという現実が生まれている。一方、年を重ねた独身者の存在が珍しくなくなるにつれ、高まっているのは「独身者の老後を養うために自分たちの子どもが年金負担が増えるのは許せない」という、(独身者は次世代の子どもを育てるという社会的責任を果たしていないという)「独身者フリーライダー論」だと氏はしています。

 しかし、(あまり知られていないが)未婚男性の死亡年齢の中央値は、およそ67歳に過ぎない。数字上では、繰り下げ受給どころか、約半数の人は繰り上げ受給しなければ年金をほとんど受け取れないことがわかるというのが氏の指摘するところです。

 これは例えば、一生懸命に働いて税金を納め、消費活動もして65歳になって仕事を辞めた未婚男性がいたとしても、その半分は2年ほどしか年金をもらわず亡くなってしまうということ。この状態はある意味、社会に多大な貢献をしているとも言えるわけで、次世代の子どもたちに負担をかけているなんて、文句を言われる筋合いはないというのが荒川氏の見解です、

 おさらいすれば、公的年金の受給開始年齢は原則65歳だが、現在は60歳から75歳の間で選択できる。繰り上げ受給(60~64歳)をすると年金額は1カ月あたり0.4%、または0.5%減額され、繰り下げ受給(66歳以降)をすると1カ月遅らせるごとに月0.7%ずつ増額されると氏は説明しています。

 繰り下げ受給による年金額の増額は70歳で42%、75歳で84%。65歳から受給を開始する場合と70歳まで繰り下げた場合を比較すると、81歳で後者の受給総額が上回る。つまり、81歳が「損益分岐点」となるということです。

 しかし、(統計を見れば歴然としているように)男女の死亡年齢は配偶関係によって大きく異なる。2020年の人口動態統計を基に計算すると、有配偶の場合、死亡年齢の中央値は男性約82歳、女性約79歳だが、未婚の場合は男性約67歳、女性約82歳で、未婚男性の死亡年齢中央値だけが大幅に低くなっていることがわかると氏はしています。

 ちなみに、妻と離別・死別した男性も約73歳とかなり低く、男性の場合は配偶関係によって寿命に大きな違いがあることがわかる。単純に言えば、男性は一人では生きていけない存在だというのが氏の認識です。

 年金の話というのは、お金の保障の問題。なので、人が年金の受給年齢を考える際は、「自分は何歳まで生きられるか?」ということをベースに考えなければならないと荒川氏は言います。男性独身者としては、(現実に)67歳まで生きられない確率もかなりの割合であるというのも(結構)厳しい話ですが、それはそれで素直に受け止める必要があるということでしょう。

 老後資金の話だからこそ、リアルに判断する必要がある。自分はどんな人間なのか、どういう生き方をしたいのか、お金と時間をどう使うのかを考えることによって、より充実した人生を送れると思うとこの記事を結ぶ荒川氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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