MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯400 社会保障制度を維持していくには

2015年08月30日 | 社会・経済


 ユーロ通貨圏からの脱退問題で揺れるギリシャの債務残高は約3170億ユーロ(43兆1千億円)で、国内総生産(GDP)の172%とされています。一方、日本の債務残高は概ね1143兆9000億円(2015.3)。GDPの実に246%にのぼり、この比率は債務危機に苦しむギリシャの約1.4倍に当たります。

 加えて、ギリシャの債務残高の急上昇はリーマンショック後に生じた現象であるのに対し、日本の場合は1990年代から続く構造的な問題だとの認識が一般的で、その原因はギリシャよりもさらに根深いと言わざるを得ません。

 もちろん、政府債務を海外の金融機関や投資家が引き受けているギリシャと、ほとんどの国債が国内で保有されている日本とでは状況が異なります。しかしそれにしても、先進国で有数の債務残高を抱える我が国にとって、財政状況の改善が急務であることは論を待ちません。

 7月27~31日の日本経済新聞の紙面(「時事解析」)では、このような日本の財政状況を踏まえ、(特に政府の最大歳出項目である)社会保障改革の方向性について分かり易く解説しているので、この機会に整理しておきたいと思います。

 政府はこの6月末に、今後の財政健全化計画を含んだ「経済財政運営と改革の基本方針2015」(いわゆる「骨太の方針」)を決定しました。

 その中で政府は2016~18年度の3年間を集中改革期間と位置づけ、社会保障関係費の伸びを合計1.5兆円程度に抑えることを明記しています。社会保障関係費は、放置すれば1年に1兆円程度の増大が見込まれるということですので、それを何とか半分程度にまで圧縮しようという目論見です。

 さて、この目標(目安)を達成するためには、具体的に社会保障費のどの部分を標的として改革を進めるべきなのか。

 「騎馬戦型から肩車型へ」と言われるように、一般的には支える側が急激に減少する「年金」の問題が、一番のネックになるイメージがあります。確かに2012年度の歳出予算ベースで見ても、日本の社会保障費のうち最も支出割合が大きいのは49.1%(53.8兆円)を占める年金給付金であり、それに32.1%(35.1兆円)の医療費、7.7%(8.4兆円)の介護費、4.4%(4.8兆円)の子ども子育て支援費が続いています。

 厚生労働省の推計によれば、年金給付については2025年時点で60.4兆円に増加するとされており、13年間で1割程度の伸びが見込まれているということです。一方、これに対し医療費は25年度には約1.5倍の54.0兆円に、介護費は2.3倍の19.8兆円に増加すると予想されており、記事は、長期的な視点で費用抑制のために改革が求められているのは、実は年金よりもむしろ「医療・介護制度」に他ならないと指摘しています。

 それでは、今後の財政支出の増加が見込まれるこの医療や介護について、制度をどのように改革し公的支出を抑えていくべきなのか。

 記事によれば、社会保障制度改革国民会議が2013年にまとめた報告書において、厚生労働省は高齢患者をできるだけ入院させず自宅などの住み慣れた場所で療養してもらう方針を打ち出しているということです。

 実際に、日本の医療機関が有する人口当たりの入院病床数は欧米と比較してもかなり多く、(特に民間病院の割合が高い日本では)経営上の観点からベッドを埋めようとする力が働くことは不思議ではないと考えられています。

 このため政府では、都道府県が圏域ごとに必要な病床数などを示す「地域医療構想」を策定し、これに沿った病院再編などを進めることで病床数を管理していくこととしています。また、今年の「骨太の方針」においても、「医療・介護提供体制の適正化」が最初の社会保障改革項目として改めて取り上げられているということです。

 さらに「骨太の方針」には、社会保障制度をこれからも維持していくため公的医療保険や介護保険制度において、所得が多い人の負担を増やす方向が示唆されていると記事は指摘しています。

 政府はこれまでも、一定以上の所得がある人には75歳以上の後期高齢者であっても3割の自己負担を課してきましたが、今後はマイナンバー制度などを活用して、預貯金なども把握し負担額を決めることも検討されるということです。

 若い世代が高齢世代を支える世代間の助け合いだけでなく、高齢世代内での助け合いを促進するためにも、負担の在り方の改革が重要になってきていると記事はしています。

 団塊の世代が75歳を迎え、医療の需要が高い後期高齢者が今後急激に増加することは確実です。一方で新しい医療技術の開発や新薬の開発により医療費が増大する中、医療費全体のボリュームを抑制していくためにも、負担の在り方についてはさらに踏み込んだ見直しを進めていく必要があるかもしれません。

 これから先、家族などに頼れない独居の高齢者が増えることを考えると、社会保障は抑制するばかりでなく一部で機能強化を図る必要もあるだろうと記事はしています。

 確かに、制度を維持できさえすれば、今後の高齢化への対応が「何とかなる」というものでもないかもしれません。財政再建を進めつつ肝心な時に機能する社会保障制度を保つためには、(結局のところ)負担増という「痛み」は避けて通れないとする指摘を、この記事から私も改めて受け止めたところです。



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