MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1891 コロナでも、東京都政は「待ったなし」

2021年07月01日 | 社会・経済


 7月4日投開票の東京都議会議員選挙は、オリンピック後に予定されている衆議院の解散総選挙を占う試金石として、梅雨空のもとでもそれなりの盛り上がりを見せているようです。

 新型コロナの感染拡大が収まらない中、オリンピック・パラリンピックの開催問題を前に国の政局も大きく動いています。
 自民党と小池百合子都知事との間に何があったのかはわかりませんが、オリ・パラの行方やコロナ対策、都の財政問題などを背景に、小池知事側にも一時の元気はありません。

 投開票まで2週間を切った6月22日には、しばらく息をひそめていた小池百合子都知事がいよいよ「過労」により身を隠し、ゴッドマザーに見放され、取り残された「都民ファースト」「小池チルドレン」の面々も心安らかではいられないことでしょう。
 そうした中、6月30日のニュースサイト「Newsweek日本版」に、在米のジャーナリストで作家の冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)氏が、「東京都議選の争点は、五輪とコロナだけでなく山のようにある」と題する興味深い論考を寄せています。

 今回の都議選では、開催予定が直前に迫った五輪への賛否やコロナ禍で疲弊する経済への救済措置など、短期的な政策に関してどれだけ明確な民意を示せるかが一つの注目点だと、冷泉氏はこの論考に綴っています。
 しかし、争点はそうした短期的な問題ばかりでない。多くの課題を抱えた大都市・東京には、今後の方向性に関する真剣な議論も必要ではないかというのが、この論考において氏の指摘するところです。

 冷泉氏はここで、都政の今後の大きな課題として、3つの問題提起を行っています。

 まず一つ目は、「東京一極集中をどうするのか」という問題です。
 一極集中の解消は東京の繁栄を削って経済活動を再度全国に分散することなので、少なくともこれまで、東京にメリットは少ないととらえられてきた。しかし、これは東京に人口が集中することが東京の経済活動と税収に「プラス」となるという前提があってのことで、巨大な単身世帯の塊が高齢化し膨大な引退世代を抱えるこれからの東京にとっては、「コスト負担」型の自治体になるかどうかの大問題だと氏は言います。

 そうなってしまってからでは遅すぎる。高齢人口を疲弊した地方に分散するのは難しいとしても、今から地方に経済活動を分散し、地方も東京も存続できる政策を考える必要があるのではないかというのが氏の主張するところです。

 続く二つ目の問題は、いわゆる「少子化」への対応です。
 東京は極端な少子化都市なので、出産適齢期の女性の東京集中が国全体の少子化の元凶のように言われている。しかし、彼女らは子どもが欲しくないから東京に来るわけではなく、それぞれに東京を目指す理由があって、あくまでその結果として子どもが少なくなっているというのが氏の認識です。

 具体的には、東京での子産み・子育てには、長時間労働や物価高、塾や私立校のコスト、そして保育事情、住宅事情などの構造的な問題が積み重なっている。少子化は結果に過ぎず、それ以前に東京の子育て世代が背負っている苦難に関しての対策は待ったなしの状況だと氏は説明しています。

 そして、都政の三つ目の問題として、冷泉氏は都の財政状況の変化を挙げています。
 現在の東京都は、財政上の余裕資金にあたる財政調整基金(財調)が急速に底をつく事態を迎えている。2019年度末には約9032億円あった財調の基金を都独自にコロナによる経済対策などに投入していった結果、最新の報道によれば2021年度末の残高はわずか21億円程度となる見込みだということです。

 協力金の支給などの是非は(この際)問わないとしても、結果として(これまで歴代の知事がため込んできた)基金が激減したのは事実であり、財政に関して根本的な立て直し策を立てなくてはならないと冷泉氏は言います。
 国に支援を求めるのか、それとも増税をするのか、あるいは少なくとも都民に「ふるさと納税」を禁止して税収確保に動くのか、いずれにしても今ここで議論をしておくことが大切だということです。

 さて、オリンピックの開催やワクチン接種のスピードアップなども、現在の都政にとっては勿論重要な問題でしょう。しかし、今後、莫大なボリュームの高齢単身世帯を抱えることが確実で、場合によっては下町を中心に「スラム化」さえも予想される東京都において、この4年間の議員任期の間に都議会で議論されるべきは、確かにもう少し大きな問題のような気がします。

 1兆円近い都民の貯金を、際限もなくあっと言う間に使い果たしてしまった現在の都政や議会の責任をきちんと総括するとともに、残された財源と時間の中で一体何ができるのかを真剣に議論すること。
 次の国政の姿や政局云々はこの際、置いておいて、東京都民のひとりとしては、(一律にお金を「配る」ようなものではなく)ぜひ都民の未来につながる「投資」をお願いしたいと考えるところです。

 冷泉氏はこの論考の最後に、都には、東京の経済に貢献してきた世代に必要な生活環境を維持する責任があると記しています。そして、その責任を全うし東京が今後も魅力ある大都市として生き残るためには、財政に関する議論から逃げるべきではないと戒めています。

 私も、そうした氏の思いを共有するとともに、「真剣な政策論議を通じて民意が示されるよう願うばかりだと」この論考を結ぶ指摘を、ともに重く受け止めたところです。



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